中央集権型暗号通貨 Fedcoinってどんな仕組み?
Bitcoinの元々の大きなアピールは、政府や銀行に頼らない分散型の新しい通貨のシステムを始めて可能にしたことだと言えます。
結果として、検閲耐性があり、ネットワークをシャットダウンできないという特徴に加え、既存の銀行振り込みより早く、安く、セキュアでキャッシュレスな送金がビットコインでは可能です。
ただし、この管理主体がいない、潰せない、没収ができない、送金を制限できない、そのような性質を持つビットコインに対して、政府は規制に頭を悩ませたり、犯罪に使われると批判したりします。
そこで発想を転換して、ビットコインを規制しようとするのではなく、ビットコインの仕組みを真似たシステムを中央集権が管理して、ビットコインの都合のいい部分だけ生かせばいいのではないか、というのがFedcoin(フェッドコイン)のアイディアです。つまり、Federal(中央的)な組織、中央銀行や政府がビットコインの仕組みをまねした暗号通貨のネットワークを形成し、それを今の法定通貨の代用にしようという考えです。
一見聞いた感じだと、水に油だし、仕組みもピンとは来ないし、そもそも何かしらのメリットがあるのかよくわからないと思います。今日はFedcoinの簡単な仕組みと意義、またビットコインとの比較・考察をしてみようと思います。
なお、Fedcoinと比較的似たコンセプトで、既存のシステムの効率化、分散化を目指すPrivate Chain(Permissioned Ledger)などについても後日説明、考察してみたいと考えています。(広義ではFedcoinもPrivate chainに含まれるのかもしれません)
そもそもFedcoinが必要だと主張する背景とは?
そもそもなぜFedcoinのようなものが必要になるのでしょうか?ビットコインではダメなのでしょうか?少なくとも政府の視点から、ビットコインには以下のような問題点があります。
- 資金洗浄、犯罪者への送金などに使われる
これはしょっちゅう言われることで、匿名性が高く(少なくとも銀行送金よりは)、マイナーも不特定多数であるビットコインは、 規制がしづらく資金洗浄、海外のテロ組織支援などに悪用される、というものです。 - ビットコインは供給量が固定されているため、不安定
ビットコイン支持者にとってはむしろ、供給量がプロトコルのルールに沿った2100万btcで固定されているのはいいことだと主張することが多いですが、政府としては通貨の供給量を調整することでコインの価格を安定させたり、色々な金融政策が必要だと考えています。実際供給量が固定されていることが、価格変動が法定通貨より激しい理由だと主張する学者や専門家も少なからずいます。 - ネガティブなイメージ、信頼できる機関からの支援の欠如
なんだかんだ言って、一部の変な人を除いて一般の人はトラストレスなシステムより、信頼できる機関、会社(国、自治体、大企業など)の承認や押しがないとネガティブなイメージを持ったり、不信感を抱いたりします。ビットコインはメディアの報道の影響などもあると思いますが、一般のイメージはお世辞にもよくなく、このイメージのせいで受け入れを躊躇する企業なども多いです。
上記の3点が主なビットコインの課題として、Fedcoin支持者から指摘されます。
ではスピード、正確性、セキュリティーなどのビットコインのメリットはそのまま生かしつつ、上記のような課題を解決することが出来るのでしょうか?次にFedcoinの大まかな仕組みを解説します。
Fedcoinの仕組みを簡単に
Fedcoinの基本的な仕組みはビットコインと変わりません。秘密鍵、公開鍵暗号などビットコインを使ったことがある人が普通に使う分にはビットコインとさして変わらないと感じると思います。
大きな違いは、中央銀行により通貨の発行量が決められていること、送金の記録、処理をするのは不特定多数のマイナーではなく特定の銀行群であること、そしてウォレットの開設には個人情報の登録が必要なことです。
一つひとつもう少し詳細に見てみましょう。
Fedcoinの発行量
これは実はかなりシンプルな話で、現在日銀が円の発行量を決めているように、Fedcoinの発行量は中央銀行が決めるようになっています。現状の法定通貨のように、中央銀行が中心に金融政策を行っていくわけで、これは合計発行量が2100万btcと決まっていて基本的に誰もそれを変えることができないビットコインとは対照的です。
中央銀行はFedcoinの仕組みのほぼ独裁的な存在として機能することが可能で、新しいコインを発行するのにマイニングをする必要もありませんし、供給量を逆に減らすことも可能です。
マイナー=銀行?
Fedcoinの仕組みでは、銀行がビットコインのマイナーに当たります。日本で言えば、三井住友、東京三菱UFJ、みずほなどそういう銀行がビットコインのマイナーのようにブロードキャストされた送金を承認し、ブロックチェーンに記録する作業をします。
具体的にどのようなマイニングメカニズムを使うかは大した問題ではないですが、送金処理の作業をすることで、ユーザーが払った手数料がそれぞれの銀行に分配されることで、承認作業に一定のインセンティブが与えられています。ビットコインと違いマイナー(特定の銀行)を規制したり、監視・管理するのは非常に容易です。
ウォレット開設には個人情報登録が必要
Fedcoinを使用するには銀行での個人情報の登録が必要です。現在銀行口座を開設するのに銀行に行き、手続きを済ませるのと同様にFedcoinの仕組みでは、ウォレットは銀行に個人情報をきちんと提出した人だけが使えます。銀行はウォレットのマスター秘密鍵を記録し、それを個人情報と結びつけておき、秘密鍵と、マスター公開鍵はユーザーに教えます。ウォレットを開設された後は、ユーザーはビットコインのようにパソコンやスマホなどから送金、受金などが出来ます。
全体の流れは?
重要なポイントは抑えたので。最後に全体の流れをさっと概観してみましょう。
※Deloitteのレポートより。記事最後のリンク参照
まずFedcoinの使用を開始するために、ユーザーは銀行に行きます。
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そこで個人情報の登録をします。免許証の提出とかいつも通りのものでしょう
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銀行はそれを記録し、マスター秘密鍵を生成し、それを個人情報と紐づけると共にユーザーに教えます(ウォレットの開設)銀行は秘密鍵を保管します。
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ユーザーは与えられた秘密鍵を使ってウォレットからビットコイン同様Fedcoinユーザー間のお金の送受信がスマホやパソコンからできます。
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送金をしたときに実際の承認作業をしているのは複数の銀行ネットワークです。一度ブロックチェーンに記録されたものは原則変更不可能です。
補足
- もしFedcoinを実際の現金化したい、もしくは海外の通貨と交換したい場合は交換所に行き、Fedcoinを渡すことで換金してもらいます。
- 今まで通り銀行にお金を預けることで利子が欲しい人は、銀行指定のFedcoinアドレスにコインを預金します。
- 銀行が保存するユーザーの秘密鍵は普段は閲覧不可能ですが、特定の条件下では第三者に公開されます。
Fedcoinのメリット、強みとは?
Fedcoinのメリットですが、即時性、確実性、低コスト、偽札防止、24時間対応など、ビットコインの主なメリットは基本的に備えています。ビットコインではなく、Fedcoinならではのメリットとして、
- 価格変動リスクが低い
価格変動がないというよりは、法定通貨との1対1のレートが国により保証されるので、ビットコインのような激しい価格変動はおそらくないでしょう - 規制が容易
銀行を通し、本人確認、場合によっては送金の追跡をするため政府にとっては非常に規制がしやすいと思います。(少なくともビットコインと比較して)規制が不透明と言われるビットコインより、銀行や事業者にとってもやりやすくなる面もあるかもしれません。 - 柔軟な金融政策
供給量がコントロールできないビットコインと比べ、Fedcoinであれば必要に応じて供給量をコントロールしたり政府や中央銀行などにとって管理しやすいです。
少なくとも政府の視点から言えば、Fedcoinはビットコインより規制、コントロールしやすく、かつ既存の仕組みを踏襲したものとなるため受け入れやすいものだと思います。同時に手数料削減、スピード上昇などユーザーにも明らかにメリットがあるため、Fedcoinは少なくとも現実解としてはつじつまがあっているとも感じますし、政府としても現金を廃止し、Fedcoinのような仕組みが導入できればむしろ魅力的な話かもしれません。
Fedcoinの問題点は?
さて、さっくりとメリットを上げましたが、Fedcoinの問題点、課題は何なのでしょうか。そもそもビットコインの意義、強みとは何かということにも関連してくると思いますが、以下のような点が挙げられます。
- Fedcoinはグローバル通貨ではない
Fedcoinは各国の政府や中央銀行が管理するような仕組みなので、結局現状のシステムと実は大きな差はないとも言えます。他の国の通貨(Fedcoin)に変換するにも結局換金所を通したり、手数料がかかったりします。世界共通どこでもユーザーさえいれば使えるグローバル暗号通貨ビットコインとは全く逆です。 - 金融政策失敗のリスク
金融政策が通用しないビットコインを批判することもできますが、それは逆に政府の金融政策が失敗するという反論も出来ると思います。実際例えば日銀の金融緩和など果たして成功しているのでしょうか・・・? - 政府、中央銀行などの監視強化の恐れ
仕組みで説明した通り、Fedcoinでは銀行がユーザーの秘密鍵を保持することになります。ユーザーの送金履歴を普段は検閲したりはしないはずですが、銀行がその気になれば理論上は今まで以上に簡単により徹底的な送金記録の追跡、監視が可能になります。今自分が現金で払っているような小さな送金、決済に関しても全て政府、銀行が把握できるようになったとしたら、プライバシーの観点から考えるとユーザーとしては非常に不安です。 - 資産没収、預金封鎖などの恐れ
例えば国の指示を受ければ銀行がユーザーの資産(秘密鍵を持っているため)を丸ごと没収したり、凍結したりすることが理論上は可能です。ビットコインの大きな魅力として、きちんと鍵の管理をしていれば自分のビットコインにアクセスできるのは自分だけですが、Fedcoinでは自分が持っていると思っているお金は結局は銀行の管理下にあるのです。ギリシャの預金封鎖の件で、自分しか管理できないビットコインに注目が当てられたりしましたが、Fedcoinの場合今より銀行や政府への権限が強くなる可能性があります。
- セキュリティーの懸念
秘密鍵は銀行が管理するため、今まで同様銀行はハッキングなどの攻撃の対象になります。ハッキング、個人情報流出などが頻繁に起こる現状、果たして銀行などはユーザーの秘密鍵の情報、コインをきちんと管理できるのでしょうか?また、マイナーはある程度は分散しているとはいえ、数はせいぜい数十程度になると想定されるので、そちらも攻撃の対象になりやすかったり、銀行間で談合などが起きるリスク(51%攻撃)ももちろんあります。 - イノベーションのスピード低下
仮にビットコインを政府が禁止して、代わりにFedcoinの使用を国民に義務付けたとしたら、関連する技術のイノベーションのスピードが大幅に低下するでしょう。ビットコインはオープンソース技術で日進月歩で技術が進歩しています。ビットコインは誰も拒みません。それに対し、Fedcoinの技術などはクローズドソースか、もしくは権限が与えられた一部のグループにしかアクセスが与えられないため、オープンソース開発や競争によるイノベーションが起きにくいと考えられます。つまり、今までの銀行そのままということです。
最後に
かなーり長くなってしまいましたが、今年後半もこのような中央集権的暗号通貨とビットコインの比較みたいなものは議論されていくと思います。その点ではそれぞれビットコインとは何か、そもそもの意義とは何か、ビットコインの課題とは何か?を考えるいいきっかけだとは思います。
私個人としては、Fedcoinとは現状の中央銀行と銀行が作る仕組みと大きな差はないと思ってます。確かに送金手数料が下がったり、24時間対応してくれたり、送金がすぐに完了したりするのはユーザーとしては魅力的ですが、ビットコインのそもそもの意義とは、権力の中央集権化、信頼というリスクへの問題提起などもっと広く、深いものだと私は思っています。
まあ、銀行が効率化することはもちろん全然反対はしませんが、その結果として自分の送金履歴全て把握されたり、ある日突然自分の資産没収されたりする可能性があるのはやっぱり嫌だよ、というシンプルな話かもしれませんが。
それでは。
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