分散SNSの可能性とALISの構造的課題
同名の記事を先日βローンチし、トークンの配布を始めたALIS上で試験的に投稿してみました。こちらのブログでも記録用にコピペし、またALIS上の記事に追加する形で自分が記事を書いた後に、プラットフォーム上で起きていること、今後どうなるのか自分の予想、私見を書いておきます。
初投稿です。
まだβですが、ALISがトークン配布も含めてローンチしたということで、素晴らしいことですね。ICOをしたプロジェクトの多くがロードマップ通りにいかなかったり、ロードマップが極端にのんびりしてたりする中、スケジュール通りプロダクトを形にしてリリース出来ているのはかなりの努力と集中、コミットメントが必要なのでこれはサポーターにもよいニュースなのではないでしょうか。
ただし、ここまでのリリースでは、フォーラム、いわゆる通常のウェブサービスの構築とそこまで変わらないので、本当のチャレンジはこれから先トークンやブロックチェーン部分を生かした部分がどう機能していくか、だと思います。
実は分散SNSについては、すでに自分が運営している「コインストリート」の方でSteemitやALISの仕組みと構造の本質的な課題などについて考察、解説したことがあるのですが、ALISについて自分が思っていること、考えなくてはいけないだろうことを書きます。
1.「良質な」情報を判断することの難しさ
ALISとSteem双方が掲げていることの一つとして、「良質な」情報の発見や、そのコンテンツへのリワードを提供するような仕組みです。それをトークンを使ったインセンティブ設計を用いて実現させようとする発想は面白いですが、この「良質な」情報の判断は実際言うほど簡単ではないと思います。
例えば、自分の頭では到底理解できないような科学的な研究や新規性のある技術やアイディアに関する「良質な」考察記事が出てきたとしても、大部分の人にはそのコンテンツは難しすぎて理解できず、価値を見いだせないでしょう。
より具体的な例を言うならば、2012年にビットコインに関して、今の状況を予言して、今後こういう世界が来るのではないか、という記事を書いてたような人たちはいましたが、それを理解したり、反応した人たちはごく一部でした。それを理解できる人たちはほぼいなかったですし、それを見た人たちもこんなものは上手く行かない、新手の詐欺だ、と記事としての評価も高くなかったと思います。
数年後、今どんな記事が界隈で「良質」(人気がある)と評価されるかというと、特定のコインのポジショントーク的煽りだったり、ポジティブな論考(このコインは頑張ってる、きっとこれからすごくなる)になってしまい、人間の「確証バイアス」(自分が聞きたいと思っていることに反応して、反対意見などは無視する傾向)の壁もあります。
ALISもトークンを利用した仕組みではありますが、この投票によるコンテンツ評価の仕組みは美人投票のような形になるおそれがあり、果たしてどれくらい狙い通り「良質な」コンテンツに報酬を与えるという狙いが機能するのか懐疑的にならざるを得ない部分もあります。(ALISの場合は記事のトークン報酬が記事作成者の保有量にも左右されるという設計が、この問題をさらに悪化させる可能性もあり)
実際すでに先行しているSteemitでも同じような問題はすでに起きており、記事の高い評価を得る為には、Steemトークンを大量に保有しているホルダーや、その他のユーザーの共感を得られるような、「Steem礼賛記事」や「ポップ音楽みたいな耳に聞こえがいい記事」が多くなってきている気が、自分の観察からもします。まあこれらの記事が「良質」かどうかの判断は個々の主観的な判断の集合のことなんでしょうが、一般が良しとするものが必ずしもハイクオリティでも、正確でもない、というのはわかると思います。
これを突き詰めていくと、常識やモラルとは何か、質とは何か、というなんかちょっと哲学的な方向に行くので、これ以上は行かないですが…笑
ALISはまだ始まったばかりなので、これからどんな記事が増えていくのか、その経過を自分も興味深く見ています。
2.ALISトークンの売り圧力について
ALISトークンはSteemと比べて一つのトークンのみを利用したシンプルな仕組みを特徴として挙げています。確かにSteemitは仕組みが複雑すぎてちょっと何が起きているのか上手く理解できてない人が大半でしょう。(Steemの仕組みなどはZoomさんのこちらの記事で日本語で上手くまとまっているのでお勧めです。)
ただし、Steemがあのような複雑な仕組みを採用している理由の一つに、遠回しに市場でのSteemitトークンの売り圧力を減らす(売りのインセンティブを減らす)、という狙いがあります。
ALISの場合は売り圧力を減らすために、トークンの移動をするとスコアが下がったりなどのペナルティーを設けていますが、シンプルなゆえにトークンの売り圧力の抑止がSteemに比べて低くなってしまっている可能性があります。(記事で報酬をもらったらみんなすぐに市場に売りに行って、結果としてトークン価格がどんどん下がっていく)
また、ALISの初期インフレ率もSteemに比べて現在高く設定されており、市場での売り圧力を減らすためにインフレ率などを調整する必要が出てくる可能性はありますが、これを何パーセントに設定するかは中々悩ましい問題だと思います。完全にALISトークンの経済政策ですねw
3.トークンの投機需要とプラットフォームの有用性
売り圧力の話とも関連してですが、新規生成されるトークンを買い支えるのは基本的には投機需要です。ALISトークンの現実世界のユースケースを増やすことで、一部実需を生み出すことも出来ると思いますが、その他のプロジェクトとかを見ていてもこれは中々大変です。
この投機需要がプロジェクトの生死に直接関わってくるというのは、Steemも含めてですが、個人的には面白い実験だとは思います。今のところSteemitは問題もありますが、何とか機能しているように見えますが、ALISがこのトークンの経済政策と投機需要のコントロールをどうしていくのか、が肝になるのかなーと自分は理解しています。
その他のICOプロジェクトはトークン価格はただの市場のセンチメントや投機需要の強さを数値化したものでしかなく(無目的のICOトークン)、良くも悪くもプロジェクトの成否とトークン価格は必ずしも相関してないのですが、ALISやSteemの場合はトークンの供給や価格などがプラットフォームの魅力と機能性に直接関係してくるのが特徴かと思います。
その点ではある意味で本当にブロックチェーンを利用したトークンエコノミー感があって、他のプロジェクトよりはブロックチェーンの文脈で面白そうです。まあ、供給スケジュールなどが変更が容易に可能なところを考えると、ポイントシステムと本質的にはあまり変わらない、という批判も出来ますが。
というけで自分がALISを含めた分散SNSに関して課題だと感じていることを3点挙げてみました。
当然完璧な仕組みはまだ存在しないですし、おそらく今後も存在しないでしょうが、実験としては非常に面白いと思うので、今後どうなるのか自分の考えは合ってたのか間違ってたのか、注意深く見ておきます。失敗する可能性も当然小さくはないですが、まあスタートアップとか新しいプロジェクトなんてみんなそんなものですしね。
最後に、ちょっと上の文章を読んだだけでは何の話をしているかよくわからない部分もあるかもしれないですが、より口頭で詳しく解説しているので、興味のある人はコインストリートの方の動画を是非見てみてください。月850円ですが、他にも動画で面白い議論や解説をしているので、お勧めです。最後に宣伝しときます笑
以上のような記事を以前コインストリートで解説した動画の内容を一部紹介しつつ、書いてみたのですが、その後にもいくつか興味深い(予想通りの)動きがあったので、追記/コメントします。
- 人気記事のトップに来る記事のレベルが低い
これも完全に予想ができたことですが、かわいい女性の画像などを載せて、いいね!を不当に?稼ごうというあまり中身のないコンテンツ、もしくは単純にすでにフォロワーの多いインフルエンサーの中身のない紹介文(自分のもこれにカウントされるか?w)にいいね!つまりトークンが簡単に行ってしまうような状況になっています。
それに対して、そんなのはおかしい!とか、レベルが低い!という、レベルの低い記事が共感を集めている、いいね!ロンダリングがすでに起きてますね。
これはSteemitでもほぼ同じことが起きていた経緯があり、界隈のインフルエンサーがHi, I'm ○○。This is my first time using Steemit but it looks cool.みたいな全く中身のない自己紹介文みたいなのを書くだけで当時数十万円分のSteemitトークンをもらえる、みたいな状況が起きており、ALISも最初は多少こういうのは避けられないでしょう。(設計が失敗すると永遠にこのままかもしれないですし) - コンテンツはすぐ埋もれる
1と関連してですが、昨日書いた自分の記事とかも比較的まともな記事(だと自分では思ってるのですがw)すぐにレベルの低い記事に埋もれます。もともと良質な記事の発見を目標としていると思うのですが、中々難しいですね。まあこれは検索性能やカテゴリ分けなどで一部対応出来ると思いますし、今後も改善されていくとは思いますが。 - 記事の削除(一時的な非公開対応)
また、そういう一種の荒らし行為に対し、すでに運営が一部記事を取り除く、みたいな対応があったという話もありましたが、こういうのは今後も永遠にはなくならないでしょうね。ただALISの場合アカウント登録に電話番号を要求しているので、こういうスパム攻撃には一定の効果があるかと(タダのフォーラムなのに電話番号聞かれるのは普及の面でアレだけど)
ただこれやりすぎるとプラットフォーム上で書きたいという人も減るので、中々バランスが難しい。まあ今はまだ試行錯誤状態でしょう。 - トークンもらったけど…
自分もなんか今の市場価格だと数千円分?トークンもらったみたいだけど、これってまだ引き出せないんですかね?今のところあまり使い道がないので(投票の重み付けとかにはなりますが)、引出しが可能になった時どれくらいの売り圧力になっていくのか興味ありますね。
というわけで、とりあえず上記のような状況がさっそく起きてますね。色々今後ルール変更してくことは間違いないでしょうが、こんな感じで実際に使われるようになっているのはでも、大きな前進だしよいのではないでしょうか。
本当はトークンモデルの設計など突っ込みどころは色々あると思いますが、良くも悪くもALISはブロックチェーン上の暗号通貨というかポイントみたいなものですし、ルールがあまり現実にそぐわなくなったら積極的にルール変更して、色々実験していくのでしょう。変な風にブロックチェーンとか分散、とかにはこだわらない方が良さそうです。