ビットコインダンジョン2.0

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ICOの理想と現実の乖離 ICOの光と闇②

ICO(Initial Coin Offerings)のハイプが少し前からブロックチェーン界隈以外にも本格的に広がっており、日本のVC、起業家なども大きく興味を持ち始めているようです。懐疑的な人もいますが、多くはシリコンバレーのVCなどに影響され、ICOは未来の資金調達方法だ、今までのVC業界などの常識が変わる可能性がある、などとポジティブにとらえている人が多い印象です。

この見方は必ずしも間違いではないですし、やり方と今後の展開次第ではICOは確かに企業やオープンソースプロジェクトの資金調達方法の一つとして定着する可能性もあると自分も思うのですが、同時にICOの夢物語解説では説明されないICOの「ひどい」「汚い」世界が実際は広がっているというのも事実です。


今日はICOの光と闇シリーズ②ということで、ICOのポテンシャルと現状の問題について説明し、最近ICOに夢を見始めたVCや企業がまだあまり見えてない「ICOの汚い世界」の一部を紹介します。

 

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(image by トレストさん )

 
(なお、シリーズ①では「投資としてのICO」について紹介し、次のシリーズ③では、なぜICOは現状のような課題を抱えているのか、ICOのスキーム、インセンティブ構造などの根本的欠陥について指摘する予定です。)

以下に動画でも同様の内容+Synereo、Bancor、EOS、Tokecardのケーススタディを解説しています。

www.youtube.com



ICOとは?


まず簡単にICOとは何かについて説明しなくてはいけないですが、これについては他にもICOについて書いた記事があるのでそちらも参考にしてください。


端的に言えば、(基本的にはブロックチェーン関連の)新規プロジェクトや会社の立ち上げ、もしくはすでに存在するプロダクト用に独自のトークン(コイン)を発行し、それを一般に向け販売し、プロジェクト開発に必要な資金を調達する行為、という理解で問題ないです。

 

ICO自体のコンセプトは2013年~2014年くらいからすでに存在するもので、例えばスマートコントラクトプラットフォームとして定着しているイーサリアム(Ethereum)は2014年にEtherを先行販売することで、イーサリアムのコンセプトの実装にかかる開発費を市場から直接調達しました。(その後Etherの価格はICO時の数百倍以上になっているわけです…)


では、ICOは本当に画期的な資金調達方法なのでしょうか?そして、なぜここに来ていきなりICOへの注目が加速しているのでしょうか?

 

ICOのポテンシャルとは?


ICOの新規性やポテンシャルには以下のような点が挙げられます。

1.誰でも世界中どこからでも投資として参加できること

ICOの強みとして、一部の投資家や証券会社などが優遇されるIPOのスキームなどと違い、プロジェクトの初期から誰でも「投資者」もしくは「支援者」として世界中どこからでも、少額から直接参加できることです。また、法律の整備と共に法的な位置づけは日々変わってきてはいますが、現状のスキームではある程度の匿名性を維持したままICOに参加し、投資活動が出来るのも特徴です。

 

これに関して、廣瀬さんがICOについて書いた記事で以下のように述べています。

 

まず、1億円の資産をもつ裕福層だけがベンチャー・キャピタルに投資できるというのは腹立たしいし、IPOの際に個人投資家は後回しというのも、ずいぶん見下した態度です。

それに比べると、冒頭で紹介した暗号通貨の事前販売は、誰でも参加できるので機会平等かつ民主的です。

 

自分個人としても最初にICOの仕組みについて知った時に、確かに証券会社などの中間業者が入って来ない参入障壁の低さに魅力を感じましたし、逆に言えばいちいち間に会社などが入ってくる株式購入などには今の時点で自分はそこまで魅力は感じられません。


2.新規プロジェクトの画期的な資金調達手段

二つ目に、企業の視点から見て、ICOは新しい資金調達の手段として魅力的であり、実際に今年に入り多数の新規プロジェクトがICOを行い、開発資金の調達に成功しています。

Coindesk
のレポートによれば、17年の6月9日時点で、ブロックチェーン関連プロジェクトへの今年の累積ICO調達額は、伝統的なVC投資額を越えており、300億円以上まで膨れ上がっています。中には数十億円、もしくは100億円以上の資金調達に成功するプロジェクトもすでに少なからず出てきています。

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(なお、この記事の発表から現在6/23までに100億円相当の調達を成功させるプロジェクトが複数出てきており、今の時点でICO調達額は500億円を軽く超えています)


ICOの実施は、少なくとも今の時点ではVCからの資金調達、もしくはIPOなどの伝統的なプロセスよりはるかに簡単で、基本的にはプロジェクトの構想やコンセプト、技術的詳細をまとめた「ホワイトペーパー」さえ書ければ、実質誰でもビットコインやEtherを利用して世界中の投資家から資金を調達できます。

そして実施の障壁が低いだけでなく、プロジェクト初期に集められる金額もVCからの調達より大きいのであれば、企業としてはこれほど魅力的な資金調達方法はありません。結果として、ICOをするプロジェクトの数は現在急速に増えており、ほぼ毎日何かしらの新規案件が発生している状態です。


3.トークン投資者と開発者間のWin-Win関係の構築

 
また、トークンを発行するメリットの一つとして、トークン購入者と発行主体(開発母体)の間でプロジェクト成功へのインセンティブを揃えられる可能性が挙げられます。

 

株のイメージで考えればそこまで難しくないと思いますが、トークン保有者はプロジェクトに投資するだけでなく、積極的にプロジェクトに参加しネットワークを広げていくことで、トークン価格のさらなる上昇を期待できます。(しかし、本来これはトークンの組み込み方、設計次第なのですが、この点は詳しくは次の記事で考察します)

また、ICOの仕組みを利用することで、今まで収益化が難しかったオープンソースプロジェクトの開発資金調達とネットワーク効果の付与が出来る可能性があるという側面もあります。この関係性については、ビットコイン研究所の大石さんの「レールウェイモデル」の記事が興味深いのでこちらを確認してください。
 
ICOの上記のようなポテンシャルは2~3年前位から議論はされてはいましたが、特にここ半年ほどで暗号通貨の投資家層が劇的に増えたこと、著名VCの参戦、法律の整備などもあり、結果としてICOプロジェクトや総調達金額は日々増え続け、ICOへの認知と注目が大きくなってきているわけです。

ICOの暗い現実


上記のような点を考えると、ICOは投資家、企業双方にメリットが認められる画期的な資金調達の仕組みに見え、実際にシリコンバレーのVCなども盛んに推し始めていますし、それを追って日本のVCや企業、著名人などもICOに注目し始めています。

ただし、正直に言えばここ数か月でICOを「発見」した層の多くは、同時にICOの現実は実際には過剰な煽りや詐欺などにまみれたひどい状況である、ということにまだ気づいていません。理論的には良さそうだ、ということなのかもしれませんが、この領域ではすでに2014年くらいから数多くのトライアル&エラーが行われており、その結果は今のところ控えめに言っても理想の美しい世界ではありません。
 

 

ICOの現況として以下のような問題点が挙げられます。

  

1.中身のないプロジェクトによる大型調達


ICOの現状の最も大きな問題点の一つに、低レベル/中身がすかすかなプロジェクト、MVPすら存在しないプロジェクト、経験の浅いチーム、などでも簡単に数億円~数十億円、場合によっては100億円以上の資金を調達出来てしまうような、過剰評価、調達額の膨張の問題があります。

例えば、先々週にクラウドファンディングプロジェクトとして史上最大の150億円相当以上のEtherを調達したBancorというプロジェクトがありますが、ICO終了後直後からプロジェクトのトークン変換モデルの欠陥などがすでにコミュニティー内で強烈な批判にさらされています。

他にも、つい2、3日前にEtherで100億円以上の巨大調達を成功させたStatusというプロジェクトも、コンセプト自体は個人的には特に問題はないと思いますが、現時点では明らかに100億円以上の規模の調達を正当化できるようなものではないと自分は感じました。

 

他にも例を挙げればきりがないですが、一言で言えば最近ICOを行うプロジェクトの全てが明らかに過大評価されているというのが自分の感覚ですし、コミュニティーの大部分が同様の見方をしていると言って差し支えないと思います。


2.詐欺の温床

上記は実力不足、中身があまりないプロジェクトに対する過剰評価に対する懸念でしたが、壊れた評価額は別として少なくともまだ意図は善良なものと言えると思います(まあ判断は難しいですが)

しかし、実際にはそれと同数以上に完全な詐欺、もしくは詐欺的と言っても問題ないようなプロジェクトも多数存在します。

例えば、イーサリアム上の複数トークンに対応したデビットカード「Tokencard」というプロジェクトはICOが終了するまで、「VISAのネットワークを利用」していることを大々的にアピールしていたのですが、Financial Timesの記事でVISAからTokencardとは何も関連性がないという公式の回答があったとすっぱ抜かれています。

(現在TokencardのウェブサイトのカードイメージからはVISAのマークは抜かれています…)


Tokencardが詐欺かどうかは断定はできませんが、他にも過剰広告、虚偽の宣言、また過去に詐欺行為などを行ったと噂される人物の関連などがあるプロジェクトも多いですし、SynereoのようにICO直後に主要メンバーが抜けたり、資金が集まり次第開発をやめたり、資金を直接関係のないことに使い込んだりするケースも後を絶ちません。そして問題はそのようなプロジェクトでも、ブロックチェーンをほのめかして簡単なホワイトペーパーとウェブサイトを用意して暗号通貨で資金を募るICOをすることで、簡単に数億円以上の資金を集められてしまう現状があることです。

自分でもある程度細かくICOをするプロジェクトについて調べることも多いのですが、感覚的には全体の9割ほどがあまり筋のよくないプロジェクト(過剰な煽り、ブロックチェーンを使用する意味なし、など)、もしくは詐欺プロジェクトであると言っても問題ないと思います。

 

3.プロダクトをリリースしたICOプロジェクトは今のところほぼ皆無

 

上記二点に対して、調達金額は期待値を現したもので妥当な範囲で過剰とは言えない。また、このようなプロジェクトにリスクはつきもので、プロジェクトが中長期で成功、拡大していくことで、調達額に見合う結果を出せるはずだという反論もあるかと思います。

では過去を振り返った時に、ICOをしたプロジェクトで成功したプロジェクト、もしくはICO時に約束していたようなプロダクトをリリースできるプロジェクトが2014年以降あったかというと、自分が知っている限り答えはほぼ皆無です。ゼロに近いです。(イーサリアム、Lisk、Wavesなどのプラットフォーム系は成功の判断が難しいので対象から抜いています)

 
最近巨額の資金を調達したプロジェクトにも必ずしもこの理論が通用するかはまだわからないですが、調達金額や手法、一時的なトークン価格の上昇にばかり注目される一方、プロダクト開発の視点から見ると今のところ壊滅的という事実は知っておいた方がいいでしょう。



4.不平等なトークンの分配

また、ICOの強みとして「誰でも参加できる公平なモデル」という点を挙げましたが、現実的には調達額の上限をもうけたり、特定のアドレスからの送金を優先したりすることが原因で、結局トークンを手に入れられるのは一部の投資家やインサイダーのみになっているという問題もあります。

これに関しては次以降の記事で詳しく説明しますが、みんなが平等に参加できるICOの理想とはまだほど遠いです。 

 

 

上記以外にも。イーサリアムの場合は過剰なICOがネットワーク全体に影響を与えたり、ICOがシステマチックなリスクになっているという指摘もあります。(イーサリアムとICOの関係については、詳しくは自分が前回書いたこちらの記事も読んでみてください)
 

まとめ

ICOがブロックチェーン業界外でも「再発見」され、投資者、企業双方にメリットのあるより平等で自由な調達モデルとして期待され始めている理由も理解できる一方、現実は過剰評価、詐欺、プロダクトデリバリーの不在など問題点の方が大きく膨れ上がっています。過去に暗号通貨全体のバブル的現象が起きているという指摘もしましたが、ビットコインやアルトコインの値上がりが一段落した今、余剰資金がICOに流れ込み、上記のような問題がさらに悪化していき、最終的に壮大な崩壊劇が待っているのではないかと懸念する声も多いです。


ではなぜこのような状態に陥ってしまっているのか、現状の問題を解決してより健全で効率的なICOを今後実施していくことは可能なのかという点について、次回の記事で自分の考えをまとめます。自分の今のところの結論は、ICOというスキームにはそもそも構造的な欠陥があり、壮大なICOプロジェクトの崩壊劇(とバブルの繰り返し)、もしくは規制者の介入などがないと現状のような問題は根本的に改善しないと考えています。