Ethereum上で新たな金本位制を目指すDigixの概要と考察
Digixについて日本では聞いたこともなかった人も多かったと思いますが、少し前にクラウドセールを始めて、なんと開始から14時間で5.5million(6億円弱くらい)のトークンを売り切ってしまい、トークンを買えない人が続出するくらいの人気ぶりだったようです。自分もちょっと調べてから少し買うかどうか判断しようと思ってたのですが、結局一つも買えないうちにすぐ終わってました笑
Digixは初期からのEthereumサポーターがシンガポールを拠点にしてやっているプロジェクトで、1年くらい前からクラウドセールに向けて準備していたようですね。そのかいあって、でしょうか。
というわけで市場での期待値はかなり高いようですが、実際Digixって何なのか、何を目指しているのか、どこらへんにつっこめるのか概要を紹介します。クラウドセールでいくら集めたかとか投資どうのに興味を持つ人も多いですが、プロジェクトのことをきちんと理解して判断するのが大事ですからね。
Digixとは?
Digixを最もシンプルに言うと、Ethereumのブロックチェーン上で金(ゴールド)をトークン化するプロジェクト、です。
本当に簡単に言うとそれだけなのですが、何が画期的なのか?他にも金をトークン化するプロジェクトはありますが。
一番大きいのは、独自のProof of Assetというプロセスを踏むことで、金の保有状況だったり、監査状況をブロックチェーン上で確認できるように記録し、カウンターパーティリスクを極限まで削減しつつ金を自在にデジタル上で交換したり引き出したりできるようにする、ということです。
詐欺まがいのコインで、このコインは金に価値が裏付けされているので価値がなくなることはありません、というタイプのものも散見されますが、それらのコインの問題点は、果たして相当量の金を本当に保持しているのか、引き出しを要求した時に本当に出来るのか、などのポイントです。ホームページで金で価値の裏付けがありますとか、保証されます、と言われても結局発行者を信頼する以外はユーザー側から確認することは出来ません。Digixの場合は、これらの金の保有状況などをブロックチェーン上に確認できるように記録し、さらにそのプロセスをスマートコントラクトなどを活用することでカウンターパーティリスクや信頼が必要や脆弱性の箇所を減らしているのです。
なので、実際に安全に保管されている金の量だけ、ブロックチェーン上でトークンが発行され、そのトークンを使ってビットコイン同様価値の移動をしたり、そのトークンを利用したアプリケーションをDigixのプラットフォーム上に作るというのがDigixの目的です。
Proof of Assetの仕組み
前述のProof of Asset(PoA)の仕組みを簡単に説明します。
この図をみてもらえば概観できるかと思いますが、
まず金の延べ棒をトークン化する必要があります。詳細は省略しますが、PoA verificationというステップを踏むことで、何月何日に何グラム、金の真贋保証をしたのは誰か、保管者は誰か、外部監査人は誰か、などの情報をもろもろまとめて、ブロックチェーン上に記録して、その情報をPoA Asset CardというEthereumブロックチェーン上のトークンに埋め込みます。金の延べ棒が、保証書の情報などとまとめて一緒にデジタル化されたと考えればイメージがしやすいかもしれません。
これらの情報が全てブロックチェーンに記録されることが、実は結構画期的だと言えます。ブロックチェーン上の記録なので、透明性の高い形で誰でも金の情報を参照して価値の証明などができるだけでなく、その情報を元にEthereum上でスマートコントラクトを作成して、価値のトレード、変換などを自動的に、信頼不要な形で可能な状況を作れるわけです。
また、このPoAカード(に省略)を保有することで、実際にシンガポールに行くことでデジタルトークンから物理的な金の延べ棒に戻したりすることも可能です。
物理的な金の延べ棒のデジタルトークン化とそれを利用したスマートコントラクトの応用がDigixの最も重要なポイントですが、実際の支払いでは金の延べ棒丸ごとを使うのではないのと同様、DigixにはDigix Tokens(DGX)という、支払い用などに使われる分割可能な別のトークンが存在します。
1DGXは、1グラムの金の価値を表し、DGXはPoAカードから生成されます。例えば、もし自分のPoAカードに100グラムの金を保有しているというブロックチェーン上の記録があれば、そのPoAカードから最大100DGXが作り出せるということです。このPoAカードからDGXへの変換もしくは逆にDGXからPoAカードへの変換のプロセスをそれぞれMinster smart contractとRecaster smart contractと呼んでおり、ブロックチェーン上のPoAカードの情報を頼りに自動的にスマートコントラクトが発動するような仕組みになっているようです。
上記のような仕組みをとることで、自動的に自律的に金のデジタルトークン化をカウンターパーティリスクを減らしつつ、透明性の高い形で実現しているわけです。最悪のケースDigixが倒産したりしても、記録は全てブロックチェーン上に残っているわけで、金の保管者(Custodian)もDigixを信頼するのではなく、ブロックチェーン上の記録をベースに判断し、金の引き出しなどを実行できます。
ちなみにこれがアセット登録の部分のプロセスの図です。
DappsプラットフォームとしてのDigix
上記のようなプロセスを踏むことで、何とか金のトークン化が出来たとして、その後そのトークンを使ってどうするか、という話になります。
Digixは金のトークン化をしてそれを売ろうというわけではなく、トークン化した金を使った分散アプリ(Dapps)を提供するプラットフォームを目指しているようです。
ここの具体例は、すでにイメージできるものも多く含まれるので詳しくは入っていきませんが、クラウドファンディングプラットフォームとしてDGXを利用したり、もしくは支払いの便利なデジタルゴールドという形で専用のペイメントプロセッサーなどのビジネスをしてもいいかもしれないです。
また、Proof of Assetの仕組みは、つまり物理的なものを安全にデジタルトークン化するプロセスなので、金だけでなく他のアセット(銀でもダイヤでもなんでも)をトークン化する時の共通プロセスとしても利用できるかもしれないです。
クラウドセールのトークンとDAOとしてのDigix
ここまで来て初めてクラウドセールで売りに出されていたトークン、DigixDAOトークン(DGD)が出てきます。
クラウドセールで売りに出されたDGDの保有者には、四半期に一回、トレードや金引き出しなどで得られる手数料などの収益の一部をDGXの配当のような形で与えられるだけでなく、プロジェクトの方向性などに対して投票できる権利としても機能しています。
クラウドセールはもうすでに終了して、プラットフォームの開発費として6億円弱ほどの資金を集めたDigixですが、DGDは要は先行投資してくれた人への配当と投票権つきの株式みたいな位置づけだと考えればいいでしょう。もちろん、法律的な解釈もあるので、株や証券という表現は使われないですが。
また、PoAを通すことで、Digix開発者にも金の延べ棒や、トークンへのアクセス権がないこと、DGDの保有者がプロジェクトの方向性を決定し、状況によっては現在の開発陣がすげかえられることも可能なため、DigixはEthereum上のDAO(分散型の組織)だと主張しています。
Digixの問題点とは?
クラウドセールで数億円を24時間以内に集めるなど市場からの評価は今のところかなり高いDigixですが、自分が感じている課題として、
- そもそもそこまで金のトークン化にこだわる必要はあるのか?
金は数千年間(もっと?)の間価値を失っていない価値の貯蔵庫として、通貨危機などのヘッジとしていまだに根強い存在意義を持っており、富の避難先として金を選ぶ人も少なからずいるようですが、PoAのような割と大変なプロセスを踏んでまで頑張って金をトークン化する意味が果たしてあるのか、というのは考え物だと思います。
ある意味で、金のような物理的存在を必要としないで、分散型プロトコルのセキュリティとネットワーク効果だけで価値を持ち、物理的なものに発生する摩擦やカウンターパーティリスクなどがないビットコインこそが次世代のデジタルゴールドだと言う見方も出来(まあ無価値になる可能性もありますが)、物理的なものをトークン化することにかかるメリットとコスト、まだ代替手段の存在(ビットコインなどの分散暗号通貨)を考えると果たして筋が通っているかまだわかりません。Digixがスケールすればこの懸念は意味はないと思いますが、その前にビットコインが一般的になってDigixのような金のトークン化と共通通貨としての利用というコンセプトが不要になる可能性もあります。
また、カウンターパーティリスクの軽減と言いましたし、Digixも対策は色々考えているようですが、ある日突然シンガポール政府が金の保有業者を抑えにかかったらその時点でゲームオーバーというちょっと反政府主義的な人の視点からの批判もできます。結局実物をどこかにまとめて保管するというのはリスクがどうしても存在します。 - 手数料などの摩擦
PoAの部分では言及しますが、PoAカードからDGXへの変換、もしくは物理的な金への交換などの部分で手数料がプラットフォームから取られていきます。
カウンターパーティリスクを軽減化してもいちいち手数料がとられるモデルというのは、マイナー手数料などを除きオープンで摩擦の少ないビットコインなどの元本が存在しないデジタル通貨に対してのデメリットでしょう。まあ大したことないかもしれないですが、何をするにもいちいち色んな種類の手数料をとられる仕組みは暗号通貨とか関係なくあまり気持ちよくはないですよね。
また、金への変換はシンガポールだけでのみ可能で、物理的な制約などの摩擦もやはり存在します。 - Ethereumが適当なのか
DigixはEthereumのスマートコントラクトを上手く利用することで、PoAカードからDGXの変換などなどをブロックチェーン上のコントラクトで自動執行するところが重要だと言います。
ただし、多分金のような価値の高いものをトークン化する時には、土台のブロックチェーンインフラの安定性の方が自分は重要だと思います。これこそカラードコインなどビットコインのブロックチェーンの安定性とそれを利用したトークンが輝く領域だと思いますし、まだまだ分散化されてるとは言えず、ロールバックの危険性もあるEthereumのブロックチェーンで今の時点で高価値のトークンを運用するのには懸念も大きいです。 - 本当にDAOと呼べるのか?
最近このDAOという単語が流行っているのか、クラウドセールをするプロジェクト(Linkとかも)しきりにこのDAOという言葉を使いますが、自分はDigixがDAOだとは思えません。
そもそもDAOとは何なのかという定義も含めてまた別に考えてみようとは思ってますが、ブロックチェーンを使っているから、スマートコントラクトを使っているからDAOという単純な図式ではないと思いますし、なんだかんだDigixの運営側が持っている裁量も大きいので、結局何か問題があっても運営が取り換えられることもないんじゃないでしょうか。
また、そもそもDAOという概念自体がいいことなのか、プロジェクトの成功率や価値を上げるのかもまだなんとも言えないですし、ハイプを利用して言っているような気も若干します。
最後に
開発側もかなり真面目に取り組んでるという話も聞いたこともありますし、かなりしっかりした方のプロジェクトだとは思います。
また、PoAとスマートコントラクトというアイディアは他のものにも応用できますし、個人的にちょっと参考になったというか発想のヒントみたいになった部分もありクレバーだなと思いました。
また、自分は特に金に思い入れとかはないですが、実際世界中に金に大きな価値を見出す人たちも多数いますし、金を自由にデジタル上で流通させ、その上に様々なアプリケーションを作れるというのは自分が考えている以上のポテンシャルがあるとも思います。
ただし、全てデジタル上で完結するビットコインなどのスムーズさの利点などの方が大きいと今のところ自分個人としては感じますし、このプロジェクトに関してEthereumのブロックチェーンの選択が最適かも疑問です。
というわけで、自分の中ではちょうど期待と懸念が半々くらいな感じですが、仮に成功しなかったとしてもコンセプトはしっかりしてるな、と思いました。
Digixの他にもSlock.itなどEthereum周りでクラウドセールの第二の波が来ているので、ここらへんは継続して見て行こうと思います。
それでは。
【参考】
Digixの公式ページ。ホワイトペーパー、FAQなどもっと詳しい情報を知りたい人は基本全てここからアクセスできます。
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