ビットコインダンジョン2.0

Bitcoin (ビットコイン)やブロックチェーンを技術に詳しくない人たちのために、面白おかしく、そして真面目に語ります since 2014

SegWitの普及が進まない理由と考えられる対策

ビットコインの混雑。相変わらずまたひどいことになってましたね。

 

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ここ2日くらいで少しずつ混雑はまた解消の方向に向かっていますが、数日前に過去最高レベルの17万5000トランザクションがMempoolに未承認のまま滞留している状態になっていました。

 

実験的に数日前に100円相当分の手数料でSegWitトランザクションを自分で送金したのですが、まだ5日間ほど未承認で浮いたままです。ある程度慣れてしまっている部分もありますが、手数料が数千円レベルで高騰したり、数日以上もトランザクションが承認されないのは中々辛いです。


まあこの時点で「だからオンチェーンスケーリングだろ」とか息を巻いている人たちもいると思いますが(笑)、オンチェーンスケーリングどうの、オフチェーンスケーリングどうのの議論は別として、この混雑にも関連して個人的にはSegWit(SW)トランザクションの浸透率が未だに低いことを懸念し始めています。

SWによる混雑解消効果も結局は限定的なものですが、大部分の送金がSWトランザクションになれば状況はある程度改善するはずですし、ユーザーや事業者としても手数料削減などのメリットがあるはずなのに、なぜSegWitの浸透にここまで時間がかかっているのか、どのような対策が考えられるか、などについて今回は考えてみます。

 

SegWitの浸透率

SegWitの浸透率を追うには、こちらのSegWit.partyというサイトが分かりやすいです。

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こちらのサイトのチャートによれば、ビットコインネットワーク上のSegWitトランザクションの占有率の最大値は18%程ですが、その後採用率はむしろ下落し、現在12%程度を数週間うろうろする状態で中々SegWit採用が進んでない状況が見て取れます。


ブロックチェーン上のデータを見ても明らかですが、ネットワークのトラフィックの多くを占めると考えられる主要ビットコイン/ブロックチェーン企業でSegWitをまだ採用していない企業も多いです。具体的に言えば世界最大のビットコイン取引所「Coinbase」、最大のユーザー数を誇るウォレットプロバイダー「Blockchain.info」、またビットコインウォレットの大部分もSWにまだ対応していません。日本の取引所でもユーザー数最大のCoincheckなど含め、対応していないところの方が多いですね。

 

逆にすでにSegWitに対応している主要企業としては、

  • Bitstamp
  • ShapeShift
  • bitFlyer
  • Bitbank
  • Trezor(ハードウェアウォレット)
  • Ledger(ハードウェアウォレット)
  • Green Address(モバイルウォレット)

 

などが挙げられます。

 

早々にSWに対応した企業やウォレットもありましたし、SW実装自体は話を総合するとそこまで難しくはないようです。(導入コストが法外に高い、というわけではなさそう)なので自分も、SWがアクティベートされて数か月たてば少なくとも主要企業の大部分は自然とSWに対応するだろうと予想していました。ただし実際は数か月たっても何もしてない企業の方が多いです。

手数料削減の効果もあり、企業にもユーザーにもメリットがあるように思えますが、なぜまだ対応がばらついており、SW浸透率が10%強で停滞しているのでしょうか。 

SegWitの普及が遅れている理由 

前述の通り、SegWitを採用すればトランザクション手数料が下がるはずで、企業がSegWitを採用しない理由もないように思えますが、なぜまだ採用してない企業が多いのでしょうか。ハードフォーク議論など通して、「送金手数料が自分たちの最大の問題」と公に宣言している企業もありましたが、そう言っていた企業でまだSW採用していないところすらあります。

今回改めて自分でも少し考えてみましたが、SegWitの採用が進まないのには結構根深い理由があると感じました。これには企業のインセンティブの問題とSegWitのトランザクション構造など技術的な要因など両が考えられます。 


企業のインセンティブの問題

SegWitの採用を本来急ぐべきなのはネットワークのトラフィックの大部分を占めていると想定されている取引所と、ウォレットプロバイダーです。主要取引所と主要ウォレットがSegWitに対応すればそれだけでもSegWit導入率は簡単に上昇するでしょう。

 

BTCの高い引出し手数料には、自分も含めかなりダメージを受けているユーザーも多いので(価格高騰もあり、引出しに1000円分以上のBTCがかかることも)、取引所はすぐにSWを採用してくれるかと考えていましたが、どうやらSWは現状取引所にとって優先順位が低いようです。

 

現在取引所が最も頭を抱えているのはビットコインのフォークコインの問題で、月に何個もフォークコインが誕生し、それに少なくない価格がつくような状況になってます。このような状況で、大部分のユーザーの関心はビットコインの取引手数料が500円から400円になるよりも、フォークコインが受け取れるかの方です。

また、これは予想ですが現在ビットコインを購入、トレードしているユーザーの大部分は、実際にオンチェーンでトランザクションを作って自分でウォレット保管しているわけではなく、取引所に資金を置いているユーザーにとってはトランザクション手数料がいくらかは重要ではありません。フォークコインの「ボーナス」をもらえるかどうかの方が重要なのは明らかです。

また、引出し手数料が高いということは、引出しの頻度が減ったり、ユーザーのお金が取引所に滞留しやすくなるという面もあり、積極的に自社取引所でトレードさせたい取引所の視点からも、手数料が高いのは大したデメリットではないのかもしれません。

ウォレットプロバイダーのインセンティブは? 

ウォレットプロバイダーも同様、SWよりフォークコインの対応に追われている印象で、ユーザーもBTCの送金手数料が100円下がることより、フォークコインの対応を早くしろ、という人が多いようです。


また、TrezorやLedgerなど端末自体を販売するモデルのハードウェアウォレット事業者は、フォークコインの対応はそのままユーザー増加と売上増加につながるのでビジネスモデルとしても矛盾がないと言えます。

一方、基本的に無料で利用できるモバイルウォレット(アプリ)などはSegWitに対応しても直接ウォレットの売上やユーザー数が伸びるわけでも必ずしもない、インセンティブの不足がSW対応をさらに遅らせているとも考えられます。無料のソフトウェアウォレットは、フォークコインやアルトコインの対応をした方が効率的にユーザー基盤を伸ばせるため、SW対応よりアルトコインやERC20のICOトークン対応を急いでいるウォレットの方が多い印象です。

 

アドレスフォーマットの問題

事業者のモチベーションが低いというのがおそらく最も大きな問題ですが、もう一つアドレスフォーマットの混乱というのもSegWit普及を難しくしています。

 

実はすでにSWに対応している取引所なども含めて、使用が限定的であったり、SegWitの手数料削減効果が最大になるネイティブのSegWit txの利用はまだほぼゼロです。

この理由の一つとして、BitcoinとBitcoin Cashのアドレスフォーマットの混乱によるユーザーの資金の紛失などを防ぐためと考えられます。(安土さん、大石さんと少し前にTwitterでちょっとしゃべってたのですが)

 

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Bitcoin CashとBitcoinのアドレスフォーマットが現在同じなので、取引所への入金アドレスをSW対応のものにしてしまうと、Bitcoin Cashをそのアドレスに間違えて送金したユーザーの資金が取り出せなくなったりする事故が起きえます(実際に何回か個人的にも同様の事故の報告を受けたことがある)

これらのリスクを考えると、BitcoinとBitcoin Cashのアドレスフォーマットが差別化され、誤送信などが起きづらくならないと、SegWitアドレスとトランザクションの使用は限定的にならざるを得ません。

 

なお、ここらへんのSegWitのアドレスフォーマットや手数料削減効果の話はビットコイン研究所で大石さんがかなりわかりやすくレポートで解説してくれているので、より詳しく理解したい方はそちらを是非お勧めします。(ちなみにその他にもビットコインのフォークコインやLightningの最新状況などを近く研究所内で公開します)

 

UX、移行コストの問題

最後はUXの問題で、SegWitに対応しているウォレットも正直に言えばまだまだ使いづらく、ユーザーが能動的にSegWit対応のウォレットに移動する障壁になっている側面もあります。

 

例えば、TrezorなどでSegWitトランザクションを利用するには、今までのLegacyアドレスから、一度ビットコインをSegWit対応アドレスに移動する必要があります。ただし、特に大きな金額の移動は中々不安も付きまとい、面倒ですし、そのまま慣れているレガシーアドレスを使い続けることも出来るため(手数料優遇はないですが)、Trezorは持っているし送金もするけどまたSWアドレスは使ってない、という人も少なくないと思います。

また、唯一SWに対応しているモバイルウォレットGreen AddressもUIがかなりわかりづらく(無理やりポジティブに捉えるとしたら玄人向け)、特に初心者~中級者が気軽に使えるものとは言い難いです。

SWの利用を増やす最も効果的な方法は、自分の受取りアドレスをSegWit対応の3から始まるラップアドレスにすることだと考えられ、ビットコイン受取の主なインターフェイスであるモバイルウォレットがSWに対応しないと、浸透率は中々上がりません。


また、ウォレット以外でもSegWitのトランザクションをわかりやすく参照できるExplorerもなく、エコシステム全般でSWへの対応がまだ追い付いてないです。

 

どうすればSW普及率を改善できるか?

というわけで、企業のインセンティブ、アドレスフォーマットの混乱、UXの問題などでSegWitの浸透が中々進まない状況になっていると考えられます。SegWitの導入が進むことは、今後のセカンドレイヤーソリューションの発達や、機能改善などにも重要なのでこれは大きな課題だと思います。

 

SegWitの浸透を促すには結局は上記のような阻害要因を一つずつ潰していくしかないと思いますが、

 

1、取引所、ウォレットの優先順位

これは取引所などに早く対応しろ、手数料が高いんだ!と訴えるしかないですね。取引所は今までの経緯も考慮すると、ユーザーにごちゃごちゃ言われるのが最も手っ取り早く動く力になりますw(ただし、SW対応している取引所の方がしてない取引所より手数料高いという報告もあり、これも一筋縄ではいかない…)

まだ対応してない日本の取引所もフォークコインとかの対応で忙しいとは思いますが、SegWitに早急に対応しているところは印象がいいですね。

 

2.アドレスフォーマットの混乱

幸運なことにBitcoin Cashでは、今後アドレスフォーマットをBTCと違うフォーマットにすることも計画されているので、近い将来このアドレスフォーマットの問題による誤送信や、SegWit採用への悪影響は解消されていくと考えられます。ただし、この変更は数か月以上先になるので、その間はSWの普及は加速はしないのかもしれません。

 
今のうちに自分たちが出来ることはやはり誤送信などしないように、BitcoinとBitcoin Cashの違いなどの啓蒙をすることでしょうか。

 

3.UXの問題

これもウォレットプロバイダーなどの改善を期待するしか出来ない部分もありますが、フィードバックを入れたり、わかりづらい部分に関してはちょっと解説記事などを出したり、情報と啓蒙をするしかないかもしれませんね。地道な作業です。

 

最後に

というわけで、なぜSegWitの導入が中々進んでないのか、考えてみると中々根深く、放っておけばすぐに問題が解決されて自然と導入率が上がるものでもないという印象です。自分個人としてももう少し能動的にこの件については啓蒙活動をする必要があるなと改めて感じました。

 

今の時点でビットコインを改善していくにはSWのより広い普及が前提にある部分も多く、また手数料高騰問題などの一部改善にもつながるので、これはエコシステム全体でもっとプッシュすべきだなと。

 

また、今回SWの利用が進んでいない(企業などに採用の有無が委ねられている)のは、SWが後方互換性のあるソフトフォークとして採用されたから、という面も興味深いです。何かしらの理由でSWを使わずに、今までの仕様を使い続けたい企業などはその選択肢も与えられているわけですが、今回のケースのようにソフトフォークでのアップデートが広く利用されるには時間がかなりかかることがありえる、というのは覚えておいた方がいいでしょう(過去にもP2SH(マルチシグ)の採用にもかなり時間がかかっているので、今に限った話ではないですが)


一方、ハードフォークは取引所やウォレットに対応を「強制」する、という見方もできるので、HFによる負担や移行コストも考えられ、メリット、デメリットありますね。

 

というわけで、待ってればSegWitの普及率も上がるのではないかと淡い期待を抱いてましたが、構造的に色々普及を阻害している要因があるので、自分個人としても特に日本での普及活動にもう少し力を入れていこうと思います。SWトランザクションが増えれば自分の手数料負担が減るだけではなく、間接的にネットワーク全体の混雑の解消にも協力していることにもなるので、まだ非SWトランザクションを主に使用している人たちは是非これを機に移行してみてください。今後関連の解説記事や動画を増やしてこうと思います。



P.S.

先日ハウインターナショナルの安土さんにビットコイナー反省会に来ていただき、 動画でSegWitやLightningの仕組みや課題などに関して解説していただきました!

少しテクニカルで難しい部分もあると思いますが、SegWitって具体的にどういう仕組みになっているのか、Lightningの仕組み、またポテンシャルや課題、制約についても議論しているので是非覗いてみてください。

 

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