ビットコインダンジョン2.0

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「Ether価格は崩壊する」論の妥当性を考える

数日前にTechcrunchに寄稿されたこちらの記事が物議を一部醸していましたね。

 

The collapse of ETH is inevitable – TechCrunch

 

まあこれを書いた人はBitcoin Coreの開発者であったり、今Ethereumと一部競合しているStellarにも協力しているJeremy Rubinさんという人だということもあり、「こんなのただのポジトーク」「こんな馬鹿な理論はない」、という感じた人もいると思いますが、記事の主張とVitalikの反論も見てみると中々興味深い論点だとは思うので、自分も少し考えてみました。

 

記事が主張していることは何なのか?

 

まず記事の主張は本質的には何なのでしょうか?Rubinの主張をまとめると、Ethereum上のアプリケーション(特に独自トークン)とEtherの関係性で以下の問題点を上げています。

 

Ethereum上で発行された独自トークン保有者にとって、別コインであるEtherを別に用意してきて、手数料支払いに使うのは面倒だし非効率。Etherなんて使わずにトークンを直接ネットワーク使用の手数料代わり(マイナーへのインセンティブ)に使えた方が便利。「Ethereumネットワーク」に多数のアプリケーションや独自コインが増えると、むしろそれらのコインを軸にしたトークン設計の方が合理的で、Etherの重要性や市場価格は下がる。

 

これに関してはEthereum(Ether)支持派の人でも、少なくとも一部は納得の指摘だと思いますし、すでにEthereumコミュニティー内でもこの問題については議論されていると認識しています。

 

確かにEthereumにとってEtherとは車でいう走行距離を決める為のGas(ガソリン)代わりに必要なだけであり、Ethereum上のDappsを動かせるGasとして機能するのであれば、マイナーへの支払いは本質的にはEtherというコインである必要はありません。

 

Rubinの記事の主張は簡単に言えばこれだけなのですが、これは確かに重要なポイントをついているかなと思います。

 

このような動きに対して、Rubinはよく言われる4つの反論を紹介しつつ、それぞれに対する反論も展開しています。細かく説明する必要性はあまりないので、要点だけ言うと、

  1. Ether抜きEthereumはソフトウェア開発の視点から言えば問題なく実現可能(だし、そうなるべき)

  2. EthereumのマイナーはすでにEther建てではなく、Fiat建てで収益性を図っている。なので支払い報酬が他のトークンになっても本質的には何も差はない

  3. 独自トークンを使用しないコントラクトも、ウォレットの改修とかをすれば問題なくEtherではないコインでFeeの支払いは出来る

  4. Proof of StakeもEtherをStakeしなくても、複数のコインをStakeするモデルで(多分)行ける

 

Etherがないとそもそもマイニングインセンティブがないからプロトコルのセキュリティーが守られずダメじゃないか、という反応もあるかと思いますが、マイナーに各種トークンで直接報酬与えた方がシンプルでマイニングへのインセンティブもつけられるし、ソフトウェアの改善とかで実現できるからそちらの方が良くない?ということです。

 

ちなみにこれだと同じ理論は、ビットコインのマイニングとセキュリティモデルにも直接当てはまりそうですが、ビットコインとイーサリアムでは状況は違います。なぜかというとビットコイン自体は少なくとも今の時点ではネットワーク上のコインというのはbitcoinのみを想定して設計されており、ビットコイン上のアプリケーションが価値を持っているというか、「通貨(コイン)としてのbitcoin」自体がアプリケーションと見なせるからです。ビットコインネットワーク上の独自コインで同じスキームを採用するのも理論上は出来ると思いますが、Dappsとか独自トークンをプロトコル開発者も奨励しているイーサリアムとは事情が少し違います。


Etherもそれ自体が通貨、Medium of Exchange、Store of Value的な機能もある、という指摘も出来ますが、Etherの最大のユースケースとはEthereum上のアプリケーションを動かすためのGas(ガス)である、というのはEthereum開発者自体が言っていることでもあります。

 

「Ether抜きEthereum」の主張には他にもメリットがあり、土台のEtherのマイニング報酬と、Ethereumネットワーク上にのっている価値の不均衡問題がこれだと回避しやすいです。(詳しくは以前自分がこのブログで書いたことがあるので、こちらの記事を読んでみてください。自分はこれはビットコイン上のトークンについて言っていましたが、この話は今はイーサリアムにより当てはまりますよね)

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(麺抜きラーメンは個人的には全くなしなんですが、Ether抜きEthereumはありなのか…?)

Rubinの主張に対するVitalikの反論

さて、こちらの記事を見てVitalikがすでにRedditでコメント、反論しているようですが、その内容は以下のようなものです。

  • 現在、EtherでのTx fee(手数料) の一部(最低基準値)をBurnして、Ethereumの供給量を調整するスキームを検討していること
  • Storageへデータを保存するための支払い手段としてEtherを利用すること
  • (説明は省略しますが)Rubinが提案している、単一ではなく、複数のトークンをStakeするタイプのProof of Stake(heterogeneous deposit PoS)は実現が非常に難しい(なのでEtherを利用したPoSが必要になる)

といった点を指摘しています。

 

このうち3つ目の主張は妥当性はともかく、自分も理解できるのですが、1つ目と2つ目の主張は、Rubinの主張への直接の反論としては成り立ってなく、EtherをBurnしなくても、特定の条件に沿って複数のトークンをBurnしていけば同じような効果はある程度期待できると思いますし、そもそもEtherをBurnして、Etherの投機的価値を半ば人工的に調整することと、そもそもEther抜きでシステムを構築した方が合理的、という話の直接の反論にはなっていないと思いました。

 

本当にEther価格は崩壊(ゼロに収束する)するのか?

さて、RubinとVitalikの主張を見ましたが、最後に個人的な私見と予想を。

 

まず記事のタイトルにある通り、本当にEther価格は崩壊するか、ですが、自分はRubinの指摘は理解できますが、実際にはEther価格がゼロに収束したりすることはないと思います。

 

記事にも書いてありますが、Etherを抜いてEthereumネットワークを機能させるスキームというのはPareto Improvemingだ(関係している人全員が、損をすることをなくより高次のベネフィットを享受できる)、と言っているのですが、これは「既存のEther保有者を抜くと」という大きな前提が入ります。

 

逆に言えば、現状のEther保有者がEtherを抜くなんてありえない、と主張して仕様変更などに対して抗議や妨害をすれば、Ether抜きEthereumはおそらく実現しないですし、Vitalikもこちらの方向性は考えていないようなので、それだけをとってもEtherがなくなるシナリオはあまり現実的ではありません。

また、市場で価格がつきそうにもない独自トークンを利用したトランザクションを作る時に、もしEtherのような「中間通貨」がないと不便ですし、Fiatとのトレードペアを持たない(持ちえない)トークンの価格形成手段の一つとしてEtherがあるメリットもあると思います。本当にEtherなしでマイナーにインセンティブを付与したとして、どのトークンの組み合わせをどれだけ、どの条件でマイナーに支払うのか、というユーザーとマイナーのコーディネーションにかかるコストとかも小さくなさそうです。

 

が、同時に、Rubinの指摘は、現在のブロックチェーン業界全体の環境を考えると、今後のEthereumやその他のスマートコントラクトプラットフォームに関して示唆もあると思います。

 

まず第一に、「EtherがなくてもDappsは機能する」という指摘はEthereum上でEtherを払わなくてもEthereum上のトークンによる報酬体系を構築すればシステムは機能する、ということでもありますが、Ethereumのコードをそのままコピペしてその他のチェーンに移行することが出来るなら、これはある意味「Etherを使わないで(別チェーン上で)Dappsが機能する」と見ることも出来ます。もし仮にこの動きが今後進んでいくなら、Rubinの主張とは少し違う形でEtherの価格がゼロに理論上は収束していく可能性はあります。

 

また、完全にEtherを抜きにしないとしても、Rubinの指摘のような独自トークンの「Economic Abstraction」 が進んで行くと、相対的にEtherの必要性が低下し、Ether価格もそれに釣られ低下する可能性もあります。このハイブリッド形式こそむしろ一番現実的だし、合理的に考えるメリットも大きいな、と思いました。

 

 

また、今回のトピックとは少しずれますが、先日Etherのブロック報酬量を3ETHから2ETHに次のハードフォーク時に変更する提案、というのが出ていましたが、これに加えてPoSへの移行など、価格のついている通貨としてのEther、の今後の行方というのは非常に興味深いです。(PoSに移行したらこうなるだろう、というなんとなくの仮説は個人的にあるので、こちらもできたらもうちょい考えてみたいです)

 

というわけで、Ether価格が崩壊する!というのは少しセンセーショナルにしている気がしますが、Ether抜きEthereumの合理性を考えるというのは面白いですし、確かにEthereumネットワーク、もしくはスマートコントラクトプラットフォームの成功とEther価格は必ずしも正の相関はないかもしれない、という認識は持ってもいいと思います。

では。