8/1ビットコイン分裂危機のシナリオ予想 ~8月にビットコインは分裂しません~
もうこの議論正直飽き飽きしてしまって、SegWitやスケールの話、いわゆる8/1ビットコイン分裂問題などについてしばらくスルーしてました。が、さすがにそろそろ無視できないところまで目前に迫ってますし、注目や不安も高まってきているのでついに腹をくくり、改めて先週末色々考えてみました。
特に、田中硬貨研究所のこちらの8/1予想記事はかなり突っ込んでUASFが起きた後の過激な展開を予想をしており面白かったのですが、自分の感覚や視点とは違う部分も多かったので、自分でも今のうちに今後の展開予想をしておきます。なお、今回の記事はわかりやすさは重視しないで、ある程度の予備知識を必要とするどちらかといえば玄人向けに書いておきます。
結論から言えば、「8月1日以前にSegWit2x(BIP91)が発動してUASFは起きない。SegWitが既存のブロックチェーンでも発動し8月中にビットコインが分裂することはない。ブロックサイズ引き上げのハードフォークの審判の日は3か月後の11月まで先延ばされる(そして多分結局HFしない)」
簡単に説明していきます。
前提 みんなSegWitが欲しい。
前提として、すでに今の時点で一部のBU派などを除き、SegWitを導入することはコア開発者、マイナー、関連ビジネス、ユーザーなどにより望まれています。今までSegWitブロックなど強硬な姿勢を示していた中国のマイナー達も、NYAに同意するにあたり、SegWitは安全であると認め、導入を容認しています。どのような形であれ(アクティベーション方法に関わらず)この時点でSegWitがビットコインに近く導入されるのはほぼ確定だと自分は考えています。
8/1分裂危機などと言って何をもめているかといえば、本質的には「どうやってSegWitをアクティベート」させるのかの点につきます。
SegWit2x(BIP91)、UASF(BIP148)は本質はそこまで変わりはしない
細かい説明はしませんが、SegWit2xのSegWit部分(BIP91)は何かと一言で言えば、 「より安全性の高いUASF」みたいなものです。ご存知の通りBIP148は8月1日発動という時期による条件設定があるのに対し、BIP91は80%以上のハッシュレートのシグナルというハッシュレートでの条件設定をしています。ただし基本的な原理やSegWit稼働というゴールは変わりません。BIP91でもBIP148でも最終的に発動するのは同じSegWitのコードです(BIP141)
その意味ではSegWitをみんな欲しいという前提の上では、BIP91もBIP148もある意味では大差はありません。ただしBIP91の方がBIP148より少なくとも今の時点でハッシュレートでの支持も多く(80%以上)SegWit発動の方法としては現時点でより安全(ネットワーク分裂のリスクが低い)な方法だと言えます。
開発者、マイナー、事業者、ユーザーのモチベーション
すでに前提として述べた通り、ほぼ全ての関係者がSegWitの導入を今の時点で望んでいます。Core開発者はもちろんSegWitを推していますし、UASF(BIP148)の分裂やワイプアウトリスクなどを避けたいマイナー、同じく分裂による混乱やトレード停止などを恐れる事業者(取引所など)、ブロックチェーンの混雑問題と高騰する手数料を解決してもらいたいユーザー…、この時点でSegWitの導入を拒否して8月1日にBIP148が発動して全ての関係者がリスクをとる必要性も本来あまりありません。
唯一SegWitの導入を否定しているのはBitcoin Unlimited派(の一部)です。彼らの中にはBIP148の発動に対抗してBitmainが主導するいわゆるUAHFをすることを望んでいる人もいると思います。ただしUAHFを支持しているスペース内の取引所や開発者はほとんど存在せず、UAHF側にとってもこれは大きなリスクになるので、Bitmainも含め本音は出来るならこの手段はとりたくないんじゃないでしょうか?
まとめると、どうせSegWitを導入するならネットワーク分裂の高いリスクを伴うUASF/BIP148を選択する理由がほぼなく、取引所や関係者なども強力にSegWit2x(BIP91)をプッシュして分裂や混乱などの最悪の状況を防ごうとしているのが現状です。
SegWit2xのコードの準備度と3か月後のHF懸念
上記のような理由で自分は8月1日のUASF発動や分裂のリスクは実はそこまで高くないと思っていて、SegWit2xのBIP141を通してSegWitがロックインして最悪の状態は回避されると予想します。
このSegWit2xのコードが実際にメインネットで稼働するのが7月21日と予定されており、その期日までにある程度以上のクオリティーの「なんとなくそれっぽいもの」が公開されれば、NYAに同意した人たちは計画通りそちらに流れると思います。
その時点で、UASFの8/1という時限爆弾の危機は避けられ、同時に審判の日は3か月後のSegWit2xのハードフォークに先延ばしされることになります。(人間心理的に考えてもこういう先延ばし行動/現状のリスク回避効果は強いのでは。)
じゃあ三か月後にはどうなるのか、まで今のうちに予想しておくと、何とか8月のUASF危機を避けたものの、ハードフォーク部分のコードのクオリティーなどに課題が指摘され、NYA側の結束が乱れ、最終的には11月のハードフォークが起きないのではないか(もしくはCore主導のハードフォークロードマップに置き換えられる)、と自分は予想します。
SegWit2xのポイントして、SegWitがBIP91を通してアクティベートされたとしても、既存のCoreノードとマイナーの大部分がSegWit2xのハードフォークを無視したとしたら、11月に真っ二つに分裂などは起きないのです。確かに11月に本当にCore派(1MBブロックチェーン残留)とNYA派(ブロックサイズ引き上げ)の間でハードフォークする可能性はありますが、8月~11月の間にここはまたごちゃごちゃ論争やドラマが出てきて、結局やっぱり焦ってHFする意味がない、リスクが高すぎる、という判断になると考えています。 もしくは本当にHFするかもしれないですが、まあそれはそれでその時点では避けられないものと考えてしまってもいいかもしれません。分裂危機とか騒がれていますが、本来誰でもいつでもやろうと思えばハードフォークをして「自分のチェーン」を作ることは可能なわけで、ある種常にビットコインは分裂危機に晒されてるわけですし。
結論
現状をまとめて振り返って、それぞれの立場のインセンティブを考えると、8月の分裂危機というのはおそらく懸念されているほど可能性は高くないのではないかと考えます。
審判の日が11月に先延ばしになるだけという風にも見れますが、SegWitがメインチェーン上で近くアクティベートされる可能性が高く、今回の流れは別にそこまで悲観的になる必要もなく、むしろ待望のSegWit導入がついに実現するということで、大きな前進と見ることすらできます。そして11月のハードフォーク危機が避けられたとしたら(自分の予想)、結果的に分裂なしにビットコインにSegWitが導入されただけ、という何か1周回って気づいたら上手く行ってた、というシナリオになります。
BIP141が間に合わず、UASFが実際に起きると最悪のシナリオもあり得るので、当然そういうリスクも頭に入れといた方がいいと思いますが、自分が状況を再整理して考えた今のところの結論は、自分でもびっくりするくらい恐れることの程ではなかった、という率直な印象です。
7月21日が次の大きなマイルストーンで、この日にSegWit2x側から「ある程度まともなコード」が出てこないと自分の予想は大きく外れることになるので、とりあえずその日を待ちましょう。もしこの時点でSegWit2xは絶望的にダメダメすぎる、となってUASFが避けられない様相になったとしたらまた何か別の予想記事を書きます。(おそらく田中さんのUASFシナリオに近い予想になると思います)
もっと詳しく知りたい人は?
上記、それぞれのBIPの仕組みの話などはすっ飛ばしているので、何の話をしているかよくわからない人もいたと思います。
自分は上記の説はソースを探すところから基本自力で調べたのですが、実は大石さんが少し前にしていた予想とほぼ変わらない結果になりました。そして実は大石さんはすでにビットコイン研究所の方でそれぞれのアクティベーションメソッドなどについて2週間以上前に詳細にレポートで解説していました。最後若干宣伝ぽくなってしまいあれですが、こちらのレポートで上記のような話がかなりわかりやすく解説されているので、もっと詳しく知りたい人はそちらを読むことをお勧めします。宣伝というかマジで普通にそっちの方が色々効率もいいと思うので…。