ビットコインダンジョン2.0

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トークンプラットフォームとしてのLiquidサイドチェーンの特徴と適したユースケース

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長い開発期間の後、ついに先日Blockstream社が開発していたFederated sidechain(サイドチェーン)プロダクト「Liquid」がメインネットで稼働を始めました。

 

Liquidは元々取引所間の資金の移動をより円滑にしてトレード体験の向上をさせることなどがメインの狙いとして期待されていましたが、ふたを開けてみるとむしろ重要なのは取引所内での使用というよりは、取引所の外でもオープンプラットフォームとして使えることかもしれない、ということなどが少しづつ明らかになってきています。

 

その中でも特にLiquid上でトークンを発行する機能はまだあまり注目されていない気がしますが、今後Liquidがトークン発行プラットフォームの一つとして重要なポジションを握る可能性もあるので、現状のトークンプラットフォームの課題なども含めて少し考えてみます。 

 

ちなみにLiquidの全体像、オーバービューなどはビットコイン研究所のレポートで大石さんがかなり上手くまとめてくれているので、興味のある人はそちらを是非読んでください。こちらのブログ記事では一部かぶる部分もありますが、特にLiquidとトークン発行に限定して考えます。

 

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(せっかくなので研究所のレポートで図解で使ったものを一部掲載)

Ethereum上のトークンの現状と課題

さて、Liquid上のトークンの話をする前に今のトークン周りの現状を少し振り返ってみます。

 

元々ブロックチェーンを利用したトークン発行はビットコインブロックチェーン上で始まり、Colored Coin、Omni、Counterpartyなどで先に実験が進みました。ただし16年~17年にかけて特にビットコインブロックチェーン上の手数料高騰もあり、トークンプラットフォームの中心はイーサリアムに移行し、今に至ります。現在存在するトークン発行の大部分はEthereum上のもので、17年のICOブームの基盤となったERC-20や、Cryptokittiesで確立されたERC-721のNon-fungible tokenが特によく使われるトークンスタンダートです。

 

Ethereum上のトークンに関してはすでに知っている人が多いので細かい説明はしませんが、ビットコインのブロックチェーン上のColored Coinなどと比べてEthereum上のトークンは、

 

  1. トークンをカスタマイズして必要な機能や制限を加えることが出来る柔軟性(最重要)
  2. 対応ウォレットや外部関連ツール、Ethereum上の別のDappsなどが多く存在し、トークンの為のインフラが整っている
  3. (少なくとも当初は)ビットコイン上のトークンと比較して送金手数料が安かった

などの要因が大きかったです。

他にもWaves、Stellar、NEMなどトークンを発行できて比較的実用的なプラットフォームは複数あるのですが、手数料がより安くても、より使いやすくてもあまり利用が広がっていないところを見ると、スマートコントラクトによる拡張性、またEthereum自体のプラットフォームとしての求心力の強さなどはやはり大きかったと思います。

 

ただし、同時にEthereum上のトークン発行では現在以下のような問題が認識され始めています。

 

  1. 手数料の高騰

    これは特に説明する必要もないですし、使っている人なら気付いているとは思いますが、Ethereum上のトークンの送金手数料が以前に比べて高騰しています。(が、Bitinfochartsで平均tx feeをちらっと見たら、今は平均で10円程度なので別段高くはないようですが)

  2. スピード

    Etheruemのブロック承認時間は10~15秒くらいと必ずしも暗号通貨の中では遅い方ではないですが、これはよりリアルタイムに近い承認を必要とするゲームや高速トレードなどのユースケースを考えると遅い、と特にスピードを売りにする新型ブロックチェーンのEOSなどに指摘されています。

  3. スケーラビリティー

    手数料と表裏一体なのですが、トークン発行からのICOなどEthereum上のトランザクション数が増えて手数料が高騰すると同時に、いわゆる「詰まり」現象が起きて中々トランザクションが認識されなかったり、ノードのメンテナンスにかかるコストも肥大化しています。

  4. 安全性

    Ethereum上のトークンの強みは柔軟性や拡張性なのですが、同時にそれは予期しないバグが混入し、トークンが動かせなくなったり、トークンを勝手に追加発行されたり、などのリスクも招きます。実際過去にそういうインシデントは何回かあり、今後さらにトークンに付与する条件が複雑化するほど同様の事件は出てくると思います。

 

Liquid上のトークンの特徴 

さて、話をLiquidに戻します。


Liquidはメインチェーン上のビットコインと1対1で裏付け(ペッグ)をされたL-BTCをサイドチェーン上で発行し、通常のビットコインより高速により匿名性が高い送金を可能にする技術です。ただし、同時に独立したオープンなブロックチェーンとして、独自トークンを発行するプラットフォームとも捉えられます。
 

細かい話はここでは省略しますが、Liquid上のトークンには主に以下のような特徴、強みがあります。

 

  1. 匿名性

    L-BTC(Liquid上のビットコイン)の大きな強みの一つがConfidential transactionsという技術を利用した匿名性の高い送金なのですが、これはLiquid上のトークンにも応用可能で、Liquid上の匿名送金が可能なトークンは「Confidential Assets」と呼ばれます。これにより送金されたトークンの金額やアセットの種類が秘匿され、トークン送金時のプライバシーが大きく改善されます。

    例えば、トークン化された証券を保有していたとして、自分が○○の株式をいくら保有していて、いつどれだけ取引所に移動したりしているか、などの情報を外部に漏れてしまうとしたらトークン化の実利用の大きな問題になりえますよね。その点でも匿名性というのはビットコインやEtherなどの通貨型のコインだけでなく、トークンにとっても非常に重要な機能です。

    匿名性の高い独自トークンの送金が可能というのが、おそらくトークンプラットフォームとしてのLiquidの最も重要なポイントになると思います。


  2. 低コスト

    Liquidのウリは必ずしも低手数料などのコスト面ではないですが、おそらくしばらくはLiquid上のトークンの送金手数料は1円以下、利用が増えてもせいぜい数円レベルと比較的安価になると想定されます。

    数円というのはトークンのユースケースによっては高く感じるかもしれないですが、Liquidは取引所連合が管理するサイドチェーンなので、必要であればブロックサイズの拡張による手数料の引き下げなども将来的にはそこまで難しくないと思います。

  3. 安定性

    Liquidはビットコインのコードベースを基に作られており、少なくともその他のアルトコインと比べれば比較的安定、安全であると言えます。Ethereum上のトークンは柔軟性や拡張可能性が強みと言いましたが、同時にこれはトークンのコードにバグが入り予想外の資金喪失や凍結なども起こりうるわけで、安定性と柔軟性はちょっとしたトレードオフの関係にあると言えるかもしれません。


  4. アトミックスワップ機能(分散取引)

    そしてLiquid上のトークンのもう一つの重要な機能として、トークンとLBTC間のアトミックスワップ、要はトークンとビットコイン、もしくはトークン間の第三者を信頼しない形での分散取引が出来る機能がついているということです。これによりLiquid上で発行されたトークンは需要さえあれば市場ですぐに取引が可能になります(遵法の話などは無視しますが)

  

Liquid上のトークンに適したユースケースは何か?

Liquid上のトークンでやはり一番特徴的なのは匿名性の高い送金(Confidential transactions)が出来る、ということになりますが、この特徴が上手く発揮されるのは「通貨性の高いトークン」、今のところStablecoin等ではないかと自分は考えています。

 

すでに多くのStablecoinが存在しますが、なんだかんだ一番使われているのはTetherというOmni上のトークンです。それからもわかるように、案外Stablecoinには多機能は要求されず、特にトレーダーのツールの一つ、分散取引のトレードペアとして、もしくは店舗での利用などを想定されているのであれば、Liquidの特徴である匿名性、手数料が低いこと、安定性、がむしろ重要という見方も出来ると思います。


Stablecoinは今のところEthereum上で発行されることが多いですが、ERC-20などEthereumのトークンは一つのアドレスを使い回しするので、プライバシーが非常に低いという欠点があります。Collectiblesなどトークンのユースケースによっては匿名性はあまり重要ではない場合もありますが、Stablecoinにとって匿名性はかなり重要な性質の一つでしょう。

 

Tetherに話を戻して考えると、TetherはLiquidネットワークにも参加しているBitfinexが実質発行しているStablecoinなので、もしかしたらTetherをLiquid上のトークンとして発行する、という展開も場合によってはありえるかもしれません。

 

もう一つLiquidトークンのユースケースとして考えらえるのは、シンプルなセキュリティートークンの発行、というのもあり得るかもしれません。LiquidトークンはEthereum上のトークンと比べると特別なカスタム機能付加などが難しいですが、同時にシンプルな配当機能だけが必要なセキュリティートークンなどを発行する場合は、拡張性より安定性が重視される場合もあるかもしれません。

Liquidの課題は? 

Liquidの課題は、一言でいえばまだ関連ツールも乏しいですし、まだ何も実証されていないことでしょう。理論上は上述の特徴や強みがあるという話をしましたが、実際に利用が広がるかどうかは、どれくらい開発者や起業家などを巻き込めるかなどにもかかっており、ここらへんはまだまだイーサリアムに分があると思います。

 

また、限りなくオープン化しようとはしているものの最終的なトランザクション承認者は取引所連合であり完全なトラストレスではないのもネックの一つでしょう。検閲の可能性など、ここら辺が忌避されると、取引所エコシステム外でのLiquidトークンプラットフォームとしての利用は期待する程広がらないかもしれません。

 

仮に匿名性の高い送金を活用したStablecoinやその他の応用が出てきた時に、国家や規制者から何かしらのプレッシャーをかけられ検閲されたり、トークンの利用を禁止されたりする可能性もありえるな、とは思いました。ここら辺がトラストレスではない仕組みの常にボトルネックに当たる部分になります。

まあとは言え、管理主体がいるトークンの場合、Ethereumのようなパブリックブロックチェーンを使おうが、LiquidのようなトラストレスではないFederated sidechainを使おうが現実的には潰せてしまうという点ではあまり差はないという反論もできますが。

他にもLiquidのブロック承認時間は1分で、これはEtheruemやそれよりさらに早いブロック承認時間のブロックチェーンと比べると非常に遅いです。(Bitcoinの10分よりは大分早いですが)ここら辺も考えると、Liquidはやはり万能なトークンプラットフォームでは全然なく、ユースケース次第、という気がします。

 

まとめ 

というわけで、今回はLiquidのトークンプラットフォームとしての側面についてフォーカスしましたが、Liquidは当初想定されていたような取引所ユーザーのみに利用されるだけでなく、より広範な領域でオープンに利用可能という部分は重要ポイントとして抑えてほいた方がいいと思います。

 

今まではとりあえずトークンを発行しようと思ったら特に何も考えずにEthereumで、ということが多かったと思いますが、スケーラビリティーの課題などにぶつかったEthereumから、LiquidやEOSなどの別チェーンでのトークン利用の移行、というトレンドが少し見えてきています。

 

同時に、スピードやコストでのメリットだけならすでにWavesやStellarなどのトークンプラットフォームが存在しているにも関わらず、それらの利用がEthereumと比較してかなり限定的であることも考えると、スマートコントラクトの柔軟性はやはり大きな強みで、何だかんだイーサリアムのトークンプラットフォームとしてのポジションを崩すのは難しかった、という展開も十分にあり得ます。

 

とりあえず、自分個人としては完全トラストレスではないが、よりプライベートな送金がビットコイン及び、トークンでも使えるというのには非常に興味があり、今までとは少し違うサービスの考案、ビジネスを構築できる機会はあるのではないかと感じました。この数か月以内に取引所内での実利用が始まったり、対応ウォレットが出てきたり色々動きが出てくるので、他の人もある程度注目しておいて損はないでしょう。

 

Liquidに関するより細かい解説や考察などは、また追って機会があればやっていこうと思います。

 

ではでは。

長期保有を検討する上で知っておくべき、Sound Moneyとしてのビットコイン理論

 

さて、ご存知の通り暗号通貨マーケットが死んでますね(今年何度目でしょうか)

 

年始の時点で一回BTCの価格が5000ドルくらいまで落ちるのではないか、と言っていたので、5000を切るのは特に驚かなかったのですが、4000ドルを切って今3700ドルくらいです。さらに、ここからもしかしたらさらにもう一段階落としていく様相を見せています。関係者の想定より下げ圧力が強かったのと、厳しい相場が少し長引きそうです。

 

アルトコインに至ってはビットコインよりさらにひどい状態で、17年に国内外で大きく盛り上がった「仮想通貨」市場ですが、昔はあんなに盛り上がっていたアフィリエイトやブロガーも息をひそめ、仮想通貨はオワコン、とか言われていますね。(これも今年何度目か)

 

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 (Coingeckoで一覧を見てみると惨状がわかります…)


ただし、残っている人はまだうろうろ残っていますし、今年に入ってからの下落局面で仮想通貨の終結を結論付けるのは近視眼的です。個人的な経験としても2014年~15年は同じような下落局面が長く続き、「ビットコインは終わった」とかいうのはもう聞き飽きているわけで、その裏で開発や浸透が進んでいたのを知っていたのでそこまで大きな心配はなかったですし、あの時は絶好の買い場になっていたという面もあります。

 

とはいえ、今まで大丈夫だったから今回の下落も大丈夫だろう、というのはさすがにちょっと浅はかすぎるとも思います。中長期で考えてなぜビットコインを買うべき(もしくは買わないべき)かを判断する為のもう少しちゃんとした判断材料や仮説が必要でしょう。

 

その中で、今年に入ってから公開された経済学者のSaifedean Ammousさんが書いた「The Bitcoin Standard」(英語)という本で、ビットコインがなぜ重要で、今後も価値を持ち続けるか、ということについて整理した本が「ビットコインとは何か」ということを考える上で非常に興味深い教材になると思いました。

今回はその内容を一部紹介しつつ、なぜ今の短期的下落に関わらずビットコインの長期的価値は棄損されないと考えられるか、ということについてまとめてみます。

 

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ビットコインとSound Money理論

 

この本の前半部分は貨幣の歴史や特性、Sound Money(日本語翻訳は難しいのですが、「正当なお金」もしくは「健全なお金」とでも言いましょうか)とは何か、ということについてかなり多くのページを割いて考察しています。Sound moneyは今の円やドルなどの法定通貨、中央銀行などの判断により価値の裏付けなしで発行が可能なFiat moneyとの対比となっています。

 

細かい部分は自分で是非直接読んで欲しいですが、ビットコインに関連した部分だけ抽出するとしたら、Sound Moneyとしてのビットコインとして重要なのは、

 

  1. インフレーション耐性があること

    Sound moneyもしくはStore of Valueとして重要な要素の一つとして、生産できる量が限られること。そうでなければ市場価値がついて広がった時に、生産量を引き上げようとする動きが常に発生し、結果として供給過剰⇒価格の崩壊⇒Store of Valueとしての機能を果たせなくなる、ということが常に起きる。

    市場価格に応じて供給量を調節できないビットコインというのは、市場価格安定という点では批判の対象となることが多いが、固定した供給スケジュールが変わらない、予測可能であるStore of Value,もしくはデジタルゴールドとして捉えた場合、強みでもある。


  2. 変更が非常に難しい(現実的に不可能)であること

    ①のポイントとも関連して、供給スケジュールも含めた特定の団体や管理主体による後方互換性のない勝手な仕様の変更が出来ないのがビットコインの価値源泉となっている。

    これはPoWのマイニングコストをかけたセキュリティ担保なども含むが、ユーザー、開発者、マイナーなどの複数の分散したステークホルダーの思惑が絡み合っている状況で、ハードフォークなどを通した変更を加えるのが非常にリスキーであり、現状維持(Status Quo)バイアスが存在し、変化しないということがゲーム理論的な均衡になっているのが、ビットコインの特徴である。

かなりかいつまんでいますが、上記のような点がビットコインがSound Moneyの機能を果たすのに重要であるという主張を展開しています。

 

The Bitcoin Standardの仮説から洞察されることは何か?

The Bitcoin Standardで展開されている主張が正しいとすれば、ビットコインとアルトコイン、ブロックチェーン技術全般に以下のような洞察が得られます。

 

  1. アルトコインの多く(もしくは全て)は、Sound Moneyとしての特性がないのでいずれ失敗する

    上記二点の、通貨の供給スケジュールが固定化され、それを変えることが現実的に非常に難しいというのは現状の暗号通貨ではビットコインのみである、と筆者は主張しています。もしそうであれば、ビットコインよりいかに速く安いコインが存在したところで、長期的にそれらのコインはビットコインと競争しているというよりは、既存の集権化された電子マネーのシステムなどと競合していることになり、長期的には政府や銀行などが発行したコインとの競争に勝つのは難しいことになります。

    よくビットコインとアルトコインの市場規模を比較することがありますが、上記の視点から考えてそれは本来は比較対象として不適とも言う考え方です。

  2. 今考えられているブロックチェーン応用の多くは無意味

    また、Ammousの主張の興味深い点の一つとして、彼はビットコイン以外のブロックチェーン応用のほぼ全てを切り捨てていることです。

    元々ビットコインはこのSound moneyを実現するために作られたシステムであり、それ以外の領域への応用は理解は出来るがそれは副次的なもので、Sound moneyを実現させる、もしくはそのMoneyを利用する以外のユースケースに関してはブロックチェーンより適切なアプローチ、テクノロジーがすでに存在するはずで、それらの多くは長期的には無意味であると主張しています。

    これは、オラクルなどの外部情報ソースに依存するスマートコントラクトや現実世界の証券やその他のアセットのブロックチェーン上でのトークン化も全て含めてです。

  3. 既存のお金の仕組みが非効率である限りビットコインに価値はあり続ける

    ブロックチェーン構造というのが、検閲耐性があり、変更が不可能なSound Moneyを作るためだけに生み出されたとして、既存のお金の仕組み(円やドルなどのいわゆるFiatと呼ばれるもの)が非効率である限りはビットコインには価値は存在し続けるはずです。これは現状のスケーラビリティの欠如による手数料が高騰する状況であっても変わりはないとしています。

    この視点からビットコインに最も近いのはゴールド(金)ということになりますが、例えば、1億円のゴールドをアメリカから中国に輸送するのにかかる輸送費が、ビットコインのトランザクション手数料を超え続ける限りはビットコインの方が優位性を持っている、などの点の指摘が非常に興味深いです。

 

Bitcoin Standard説への批判は何か?

自分はThe Bitcoin Standardの主張と個人的に自分の考えが近い部分もあり、主張はおおいに理解できますし、読み物としてもまとまっていて面白いと思いました。ただし、同時に以下のような批判も出来るとも思います。

 

  1. PoW不要論

    本の主張とは矛盾はしないが、Sound Moneyの要件を満たせるのであれば、別にPoWのいわゆるナカモトコンセンサスを使用する必要はないのではないか。もしそうであるとすれば、PoW以外のより効率的なマイニング方式で変更が難しく、供給量が限られているコインが出現したら、ビットコインではなく、そちらが勝つことになります。

  2. Bitcoin価格の不安定さへの批判

    この本では一般社会での実利用の上でのビットコインの価格の不安定性に関してはあまり記述がなかった気がします。確かにSound moneyとしてのビットコインが社会にいずれ価値を認められるとしても、価格が安定しない限りには日常生活での実利用は難しい部分も確かにありますし、もしそうであれば浸透にもかなりの時間がかかるのではないか、ということです。

    確かにデジタルゴールド、Store of Valueとしての存在意義を認める人は世の中に少なからずいるとは思いますが、一般の人はそんなことより何か便利なことに使えるか、などを当然重視する傾向があります。現代社会で大部分の人がゴールドを保有はしておらず、日常的にゴールドを使用する人がほとんどいないのがその証拠の一つとも言えるかもしれません。

  3. Digital Cash以外の応用のポテンシャル

    AmmousはSound money,Digital Cash以外のブロックチェーン応用はほとんど全てバッサリ切り捨てていますが、同時にもともと特定のユースケースのために作られたものが進化し、別の応用領域でも予想外に効果を発揮する可能性も捨てきれないとは思います。(同時に今のブロックチェーン応用の多くが筋が悪いというのも個人的にも同意しますが)

    なので、仮にもし彼の主張が正しかったとしてもその他の分野での応用や実験というのは引き続き意味があるのではないか、という反論をすることは出来ると思います。

 

考察

というわけで、Sound moneyとしてのビットコインに長期的に価値があるとする上記の主張は中々興味深いと思います。

 

当然上記主張に(全く)賛同できない人も少なからずいると思いますが、ビットコイン及びその他のアルトコインの根源的価値(の欠如)とは何か、ブロックチェーンの応用の意義と無意味さはどこにあるのか、というのをオーストリア派経済学の視点から分析しており、主張の一つとして理解しておいて損はないかと思いました。上記の紹介はあくまで一部なので、興味のある人は是非自分でAmazonとかで自分で買って読んでみてみてください。

 

特にここしばらく入ってきた人たちの特徴として、単純な手数料やスピード、柔軟性、企業とのパートナーシップの有無などの点のみを重視したり、ビットコイン自体は調べもしないし、関心がない人も多いと思います。ただし、仮想通貨全ての起点になっているビットコインの設計が特定の目標を実現させるためになされたものであるなら、もしその他のコインへの関心の方が強かったとしても、オリジナルの設計思想を理解しておくことは非常に重要だと思います。

 

じゃあ最後に結局ビットコインは買いなのか、という話ですが、まあ上記のような仮説が自分自身で納得、信じられるなら長期的に保有しても問題はないとは思います。ただし、短中期ではもっと振り落としがあるかもしれないですし、ビットコインも仕様変更の波に飲まれて上記の仮説が破綻したり、ビットコインより良いものが出てくる可能性も当然否定はしきれません。

 

いずれにせよ、しばらくパチンコ玉やペニーストックみたいな形でなんでもかんでも仮想通貨を買って上がった下がった、というような現象が特に去年は凄かったですが、市場も大分落ち着きを取り戻し現実が見え始め、こういう経済学的もしくは技術的な観点から優れたもののみが長期的には生き残っていくという動きが増しているという見方も出来るかもしれません。それは暗号通貨(仮想通貨)市場全体としては健全だとも思います。

 

ビットコイン以外のコインのファンダメンタルズ材料について

 

今回の話はビットコインの存在価値に関する話でしたが、他にも今後注目されるトレンドやコイン、またそれらのトレンドへの批判や懸念などのファンダメンタルズ材料については、今回の市場下落のタイミングでビットコイン研究所の方で一部まとめました。興味がある方はそちらも是非ご参加ください。具体的なトピックとしては、

・イーサリアムの苦境
・PoSコインの将来性
・ICOコインはもうゲームオーバーか
・ガバナンスコインは本当に機能するのか

などです。


また、どのコインが上がる下がるという話ではなく、暗号通貨の仕組みや課題、最近のトレンド、安全にコインを管理するセキュリティ体制の構築ど、より根本的な部分の知識を蓄えておけば、短期的なノイズは結構無視できるようになると思います。 

 

EOSのアカウントを無料で作成する方法+EOSの課題

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こちらの記事は、ビットコイナー反省会の動画で解説した、EOSのアカウントを簡単に無料で作ってみる方法を紹介しつつ、EOSの課題にも少し触れようと思います。

 

正直にいうと、想定していたよりはEOSアカウント作成に関して関心がまだあまり高くないなーという印象ですが、せっかく無料で一個アカウントを作って、EOSがどんな感じで動くのか体験する機会ですので、興味のある人は今のうちにやっておいて特に損はないと思います。BitcoinやEthereumと使用体験が全然違う部分も多いですね。

 

www.youtube.com

 

今回のアカウント作成はirexさんの無料キャンペーンを利用しているのですが、irexの方で記事でもやり方が詳細に説明してあるので、こちらも一応紹介しておきます。

 

help.irex.io

 

チュートリアル動画をやりながら一部説明していますが、EOSはこのアカウント作成部分が今までかなりハードルが高く、EOSを使い始める為にアカウントを作るのにも一苦労って位だったのですが、最近こういう外部のサービスやウォレットとの統合も大分改善してきており、前よりは大分使いやすくなってきています。改善のスピードはかなり早いですね、正直。

 

なのでユーザービリティは少しづつ上がってきているのですが、後はこれを使って何を出来るのか、EOSじゃなきゃ出来ないことが果たしてあるのか、というとこらへんの話がそろそろ増えるかな、という印象です。

 

同時に、開発者用の環境はどんどん改善している一方、まだまだ開発ツールがバラバラだったり、実際EOSを使った開発をしている人たちの数もそこまでは多くないことから、多様なアプリケーションが出てくるみたいな状況はまだしばらく先でしょう。その点ではEOSが競合として意識して、いい意味で真似しているEthereumの方がまだ大きなリードはありますが、EOSアプリケーションのEVMとの互換性なども予定されており、半年、1年後でどういう状況になっているかはわからない、といったところでしょうか。

 

一方、少なくとも部分的に競合と見なされるEthereumは(正確にはConsensysが分析をスポンサー)、EOSの概要と問題点を詳細に分析するレポートを出しており、こちらのレポートはいずれにせよ非常に良いまとめレポートになっているのでお勧めです。

 

具体的な内容を説明すると、それだけで単独の記事になってしまいそうですが、大きな指摘として、

 

  1. EOSはそもそもブロックチェーンというよりは分散データベースに近い
  2. EOSが公式に発表しているTxパフォーマンス(秒間数千~数万程度)は実際には、250tpsくらいしか出ない
  3. EOSトークンを基軸としたComputationリソース市場は実際に機能するか懐疑的

などの指摘をしています。

 

というわけで、当然全てが完璧なものはいずれにせよないですが、色々調べたりした中で個人的に今一番簡単で無料なアカウント作成方法を紹介したので、とりあえず入り口として試してみるのには最適です。

 

また、EOSに関しては先日HashHubでもイベントを開催して、そこで議論に上がったことについてコインストリートの方でも色々議論しました。興味がある人はそちらも覗いてみてください。

 

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