単純な支払い手段を超えたLightning Network応用の最新事例
一つ前の記事でもLightning Networkのユーザー体験などについて書きましたが、ビットコイナー反省会の動画で、最新事例やユースケースを実際にデモで見せつつ、Lightning Networkの今後の応用可能性や今の時点での課題などについて説明しました。ビットコインダンジョンの方でも要点を紹介しておきます。
Lightningは単純な支払い手段の代替ではない
Lightning Networkについて考えるときに、まだまだ単純なペイメント手段としてとらえている人が多い気がします。確かにLNが広く使われるようになれば、今までの通常のオンチェーントランザクションより速く(ほぼ即時着金)、安いペイメントも可能になり、店舗での支払いなどの多くがLNに移る可能性は大いにありますが、単純にLNを支払い手段としてとらえた場合、わざわざその為にビットコインを用意して、チャネルをセットアップする理由や既存のSuicaやAlipayみたいなものに対する優位性も余りありません。
また、LNをビットコインのスケーラビリティの解決策として見る見方もありますが、個人的にはLNはスケーラビリティの問題とは本来切り離して考えるべきだとも思っています。確かに大部分の細かい送金がLNベースになればスケーラビリティの大きな向上も見込めますが、LNは比較的大きな額の送金に向かないことや、オンチェーンTxに頼る部分もあり、結局LNとは同時並行で各種その他のオンチェーン、オフチェーン技術の改善が必要なのは間違いないでしょう。
重要なのは、LNを使うと「今までできなかったタイプのアプリケーション」が可能になるということで、それらの新しいコンセプトがここ数か月で少しづつ見え始めています。以下に自分が面白いと思ったものを一部紹介します。
Satoshi's place
- Satoshi's placeはオンライン上の共有お絵かきボードみたいなもの
- ただし、自分のイラストを書き込むには1pixelごとに1satoshi課金が必要
- オンライン上の細かいアクションに対して、1円以下のマイクロペイメントを組み込むことで、新しいタイプのPaywall的な仕組みが作れたり、細かい課金が可能になることの証明
Lightning Spin
- LNを利用したProvably Fairなオンラインギャンブルサイト(のコンセプト証明)
- LNを利用することで、少額からBetできるだけでなく、即時着金やLNの双方向ペイメントを利用したWithdraw(払い戻し)が出来る
- LNの即時着金という特性を使うことで、ゲームやサービスのユーザビリティーやUtilityの向上
LightningJP (API Callごとの課金)
- Lightningで1円くらいの金額を送ることで、特定のアカウントでツイートが出来るというコンセプトサイト
- BlockstreamのIFTTTという仕組みを利用
- APIコールごとの1円以下の細かい課金やコントロールを利用することで、事業者の新しい集金方法や、スパム対策などにも利用可能か
Zigzag
- Lightningを一部組み込んだShapeShift的なサービス
- 完全なトラストレスな形ではまだないが、LNを通してビットコインをZigZagに送ることで、各種アルトコインを送り返してくれる
- LNの即時着金の特性を利用したもので(ShapeShiftのように着金時間を数十分待つ必要がない)、LNを一部だけでも組み込むことで、ユーザー体験の向上や為替リスクの回避などが可能に
- 取引所が今後LNをどう組み込んでいくか、特に即時着金とユーザー資金を取引所が持たない形(Non-custodial exchange)、また、LNを利用したクロスチェーンスワップによるDex(分散取引所)が2018年後半~19年のトレンドになってくるはず
その他
- ゲームやエンタメ領域でユースケース考案が先行している
- LNでお金を先にデポジットして、ゲームをクリアしていくごとに返金がされる「実質無料ゲーム」。返金機構としてのLN。
- 他にもTwitchなどのゲーム視聴プラットフォームにLNを組み込むことで、ユーザー(視聴者\ファン)からのリアルタイム送金が、実際のゲーム攻略やゲームシステムに影響を及ぼす形のもの、エンタメ的なものとの相性が良さそう
まとめ
- Lightning Networkは単純な送金手段の改善ではない
- おそらく支払い部分の置き換えの前に、その他のサービス、今まで出来なかったことや、存在しえなかったサービスなどの部分の応用が先行して、支払い手段としての浸透はその次だと考える
- すでに上記のようなLapps(Lightning Apps)が出てきており、応用はさらに今後加速していく
- 同時にインフラ部分やウォレットなどのインターフェースなどはまだまだ未成熟で、そこそこリテラシーの高いクリプトユーザーが使い始めるのは半年~1年、ライトユーザーの利用などは1年半~2年先か?
- しばらくは使いたい人は実験と失敗、セルフゴックスの連続を覚悟すべき笑
7月21日のHashHubのカンファレンスでも複数セッションでLightning Networkについては解説、議論がされます。まだ席ももう少し残っているので、是非スケジュールが合う方はこちらのカンファレンスでお会いしましょう。内容は今回は自分が中心に企画しましたが、Lightning以外にも最新の事例や議論、考察が聞け、自分も含め色々勉強になることが多そうです。
Lightning Networkのユーザー体験から見た課題と今後の展望
いやー、最近はLightning調べるのにどっぷりはまっています。他にも色々やっているので、本当はもっと時間をとって細かい部分を理解したり、新しいウォレットやサービスの実験をしたいのですが、休日の趣味でLightningについて色々いじっているような状態です笑
そこで色々本格的に調べたり、いじったり、どういうサービスや改善が今後必要になってくるのかを考えているのですが、今回特にユーザー体験の観点からLightningが現状ではどういう問題を抱えているのか、今後どのような改善が考えられるか、そして開発者だけでなく、ビジネスマンや投資家、企業などがLightning Networkを初めとしたセカンドレイヤー技術に早いうちから注目すべき理由、ということで、ビットコイン研究所のサロンの方でレポートを書きました。
こちらのブログでも一部要点の紹介と今の個人的な見通しを簡潔に書いておきます。
Lightning txと通常のオンチェーンtxの違い
Lightning txと通常のオンチェーンtxは支払いのフローやステップがユーザー体験的に全然違い、オンチェーンtxに慣れている人でも最初は戸惑うことが多いと思います。
オンチェーンtxが相手のアドレスさえ知っておけば、ビットコインやその他のトークンを送り付けられるの対し(プッシュ)、Lightningの方はInvoice(請求書)形式なので、受取り側と送信側のコーディネーションコストが少し高くなっています。これは送る時に相手側がオンラインであることが必要なども含め、LN送金やウォレット、サービス構築する上の基本的な違いになります。
ちなみに最近Lightning関連のウォレットがどんどん出てきているのですが、それぞれの開発者がどのように最適なLNウォレット体験を提供しようと実験しているのかを見て考えるのが最近の自分のもっぱらの喜びの一つですw
現状のLightning Networkのユーザー体験の主要な課題
Lightningのポテンシャルや現在進行形で新しい技術やウォレット、ユースケースなどがどんどん登場してきている現状に自分個人としてはものすごい期待をしているのですが、同時に今のままのLightning Networkではユーザビリティ上の致命的ともいえる課題がまだまだ多いです。以下に大きなものを簡潔に紹介します。(研究所の方のレポートではそれぞれ詳細に解説しています)
- LNチャネル上の流動性の問題
LNの仕組みとして、事前にある程度の金額をデポジットする必要があることはすでに知っている人が多いと思います。Suicaに事前チャージして、その分電車や自販機で高速に使えるようになるイメージですね。これは割と直感的です。
問題はLNの技術の仕組み上、チャンネルにためている金額≠自分が実際に送れる金額、ではない、ということです。これは中継するハブに貯まっている金額やお金の流れの方向性が関わっていたり中々複雑なのですが、ユーザーにはこれは非常にわかりづらいと思います。0.1btcチャンネルにデポジットしたからこれを丸々送りたいのに、実際に送れるのは0.01btcまで、みたいな感じですね。 - チャンネル構築時の混乱
LNは事前に複数のチャンネルを色んなハブと空けておくことで、LN上でつながっている人(ノード)の数が増えるのですが、どのノードにつないでおくべきか、どうすれば効率的か、というのはユーザーからはぱっと見全然わからないです。
通常のオンチェーンTxだと、特に何も考えずに相手のアドレスさえわかれば、自分の持っている残高の送金は出来るのですが、LNの場合はもう少し複雑で事前にどのノードにいくらのBTCをデポジットしておくのか、というのを今の時点ではユーザーが能動的に考えないとまともに送金も出来ません。 - バックアップの問題
通常のオンチェーンウォレットだと、12文字、もしくは24文字のパスフレーズを保管することで、スマホ端末などを紛失しても中のコインを復元することが出来ます。大部分のユーザー(というかこのブログの読者なら)これはすでに慣れていて問題ないと思います。
ただし、LNウォレットの場合はこちらのパスフレーズに加えて、LN上のチャンネルの最新残高をそれぞれ保管しておく必要があり、バックアップのオーバーヘッドコストが高くなり、今のところはそういうのを快適に提供しているウォレットやソリューションもありません。
秘密鍵なくしたら中身Goxだよ、というのすら人類に早すぎる、という指摘もある中、それに加えてLightningの最新ステートは暗号化して複数のサーバーに分散保管しなくちゃいけないよね、というのは結構つらいですし、場合によってはステートの保管サーバへの信頼が発生する部分が必要になったり、ハードルはまだ高めです。
などなど、他にも細かいユーザビリティ上の課題は色々あり、まだまだ一般のユーザーどころかある程度慣れているユーザーにも普通に使うのはレベルが高いのは事実です。同時に上記のような問題を克服するための基礎技術も色々研究、提案されており、上記問題の大部分は最終的には解決されるのではないか、と自分は考えています。
また、基礎技術だけではなく、Lightning上の超少額課金を利用したSatoshi's placeなどのLightningゲームも複数出てきており、ユーザー間、企業とユーザー、企業間の間で実用的な双方向の少額課金ネットワークが出てきた時に、そこに新しいサービスやコミュニケーション、経済圏の形が自分の中でも少しづつ見えてきている感覚があります。何よりこのボンボン次から次へ、新しいタイプのもの、今までの技術では出来なかったコンセプトが立ち上がってきており、非常に今楽しいです。
感覚的にはまだトークンを利用したアプリケーションや応用例がまだほとんどなかった2014年くらいにトークンをいじっていて、「これはすごい」「すごい色んな応用が考えられるぞ!」と勝手に興奮していたくらいの時に近い感覚を今持っています。
(ちょうど今日たまたま、初めてこのブログで記事を書いたつくばのカフェにいます笑)
今後ブロックチェーン関連のアプリケーションがセカンドレイヤーにどんどん移行していくことが想定され、出来るだけ早くこの動きにキャッチアップするだけでなく、どんなものが今後作られているのかを予想しつつそこの領域を作っていけるようになれればめちゃくちゃ面白いことが出来るだろう、と今考えています。これらの動きは開発者や自分のようなビジネスデベロッパーだけでなく、投資家や大企業なども見逃してはいけないトレンドになると思います。
というわけで、まだ難解であるのは間違いないですが、非技術者とかにもある程度わかるようにまとめたので、興味がある方は是非ビットコイン研究所への参加もご検討ください。
P.S.
というわけで心機一転!このブログのタイトルも「ビットコインダンジョン」から「ビットコインダンジョン2.0」に改称することにしました!笑
この謎の2.0は、昔からの読者なら覚えているかもしれませんが、昔使っていた「ビットコインを語ろう2.0」の2.0は、「ビットコイン2.0」つまり、送金だけでなく、トークンなどのブロックチェーン応用の2.0の意味ででした。
今回の2.0はセカンドレイヤーの2.0。これが今後3.0、4.0になっていくのか、それともまた気分で名前が変わるのか、自分でもまだわかりません笑最近ブログ更新が全く出来てなかったのですが、出来ればこれからもうちょいこっちの更新も頑張りたいので、色々と引き続きよろしくです。
仮想通貨市場の第1Qが予想以上に死んでたことに今さら気付く
仮想通貨の価格ランキングサイトとして有名なCoingeckoがまとめているクオーターごとのレポートが中々良く出来ており、それをビットコイナー反省会の方でも一部紹介して、市場の動きなどに関して簡単に考察したりしました。(レポートのPDFファイルのダウンロードリンクも動画のディスクリプションに貼ってます)
で、まあレポート自体や、上記の動画を見てもらえればわかるんですが、18年の第1Q(1月~3月)って体感的にもきつい下落相場だったんですが、データで見ると、「え、こんなやばかったっけ?」というレベルだということに今さらですが気付きました笑
まあとりあえず以下の画像を見てもらえれば全てわかりますが…。
これは、やばーーーーーーー!!!やばいとは思ってたけど、改めてこう主要暗号通貨の最高価格からのここ数か月での下落率を見ると、それは息をしてない人たちもいるわけで…。というか冷静に考えると自分も息をしている場合なのか!?w
まあ自分の場合は落ちる落ちるというのは当然想定の範囲内でしたし、あまり数か月単位の価格変動などは特に気にしてないのですが、これは年末年始に意気揚々と入ってきた初心者の多くが死亡状態になっていても驚きはしないですね。
上がる下がるは運の部分もありますが、ここまで全体的に死んでるとは…。XEMとかもコインチェックの事件があったり下がっているのは知ってましたが、9割近くATHから価格が下落していたのは知りませんでした。
去年末とかは億り人どうの、という話で盛り上がってましたが、第1Qが終わった時点で気付いたら、1000千万人くらいにグレードダウンしてしまった人たちも少なくなさそうですね。(まあネーミングとかはどうでもいいですがw)
自分が中々他の人に買うべき、とか投資のお勧めみたいなことをあまりしてないのもこういうことが起きえるというのもありますね。恐ろしすぎる…。
逆に言うと、仮想通貨トレードお勧めだよ、ここで取引所使えるよ(コインチェックとかのアフィリエイトも盛り上がってたし…)とお勧めしていたブロガーたちも、若干煽りとかが過ぎたよなー、と思っているわけで、責任取れ、とか言われている人たちもいたようですね苦笑
当然、最終的には投資判断は個人の責任なので別にブロガーとかのせいにしてもどうしようもないですが、ただ彼らにとって都合の良いこと(特定のコイン(自分の保有銘柄)を煽ったり)、リスクの部分を伝えないで都合のいい取引所の誘導や購入の推奨とかに関しては気を付けた方がよいでしょう。
ちなみに価格が落ちて死にそうになっている人たちのために、少し前に以下のような動画も作ってたんですが、まあCoingeckoのレポートの数字見ると、そんな冷静になれない気持ちもまあわかりますね、残念ながら…。
で、これからどうなるのか?ですが、さすがにここまで全体的に落ちるとそろそろちょっとずつ市場全体がリバウンドする気配を見せているようです。
特に下げ幅がひどかったアルトコインは新しいバブルが形成されると、下げ幅がひどかった分、上げ幅もすごいことになったりすることもあるので、少しづつそこらへんのタイミングを狙っている人たちが出てきているような様子です。まあ正直どのコイン買うべきとかそういうのはないですし、仮に価格が上がりそうだと思っても、自分は特に根本的価値を見出せなかったり、自分で使う必要性のないものはあまり買わないのですが…。
価格がこんなに死亡状態になって、お通夜みたいな状況になるのもちょっとあれですが、正直に言うとここしばらく去年のアホみたいな煽りや、勝ち誇ったりドヤったりする人も減り、非常に静かでより重要な話に集中出来ていた部分もあったので、価格が上がり始めるのはいいですが、去年より業界全体のレベルや成熟度が引き上げられているといいですね…、まあ淡い夢でしかないことはわかってますが…。