ビットコインダンジョン2.0

Bitcoin (ビットコイン)やブロックチェーンを技術に詳しくない人たちのために、面白おかしく、そして真面目に語ります since 2014

長期保有を検討する上で知っておくべき、Sound Moneyとしてのビットコイン理論

 

さて、ご存知の通り暗号通貨マーケットが死んでますね(今年何度目でしょうか)

 

年始の時点で一回BTCの価格が5000ドルくらいまで落ちるのではないか、と言っていたので、5000を切るのは特に驚かなかったのですが、4000ドルを切って今3700ドルくらいです。さらに、ここからもしかしたらさらにもう一段階落としていく様相を見せています。関係者の想定より下げ圧力が強かったのと、厳しい相場が少し長引きそうです。

 

アルトコインに至ってはビットコインよりさらにひどい状態で、17年に国内外で大きく盛り上がった「仮想通貨」市場ですが、昔はあんなに盛り上がっていたアフィリエイトやブロガーも息をひそめ、仮想通貨はオワコン、とか言われていますね。(これも今年何度目か)

 

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 (Coingeckoで一覧を見てみると惨状がわかります…)


ただし、残っている人はまだうろうろ残っていますし、今年に入ってからの下落局面で仮想通貨の終結を結論付けるのは近視眼的です。個人的な経験としても2014年~15年は同じような下落局面が長く続き、「ビットコインは終わった」とかいうのはもう聞き飽きているわけで、その裏で開発や浸透が進んでいたのを知っていたのでそこまで大きな心配はなかったですし、あの時は絶好の買い場になっていたという面もあります。

 

とはいえ、今まで大丈夫だったから今回の下落も大丈夫だろう、というのはさすがにちょっと浅はかすぎるとも思います。中長期で考えてなぜビットコインを買うべき(もしくは買わないべき)かを判断する為のもう少しちゃんとした判断材料や仮説が必要でしょう。

 

その中で、今年に入ってから公開された経済学者のSaifedean Ammousさんが書いた「The Bitcoin Standard」(英語)という本で、ビットコインがなぜ重要で、今後も価値を持ち続けるか、ということについて整理した本が「ビットコインとは何か」ということを考える上で非常に興味深い教材になると思いました。

今回はその内容を一部紹介しつつ、なぜ今の短期的下落に関わらずビットコインの長期的価値は棄損されないと考えられるか、ということについてまとめてみます。

 

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ビットコインとSound Money理論

 

この本の前半部分は貨幣の歴史や特性、Sound Money(日本語翻訳は難しいのですが、「正当なお金」もしくは「健全なお金」とでも言いましょうか)とは何か、ということについてかなり多くのページを割いて考察しています。Sound moneyは今の円やドルなどの法定通貨、中央銀行などの判断により価値の裏付けなしで発行が可能なFiat moneyとの対比となっています。

 

細かい部分は自分で是非直接読んで欲しいですが、ビットコインに関連した部分だけ抽出するとしたら、Sound Moneyとしてのビットコインとして重要なのは、

 

  1. インフレーション耐性があること

    Sound moneyもしくはStore of Valueとして重要な要素の一つとして、生産できる量が限られること。そうでなければ市場価値がついて広がった時に、生産量を引き上げようとする動きが常に発生し、結果として供給過剰⇒価格の崩壊⇒Store of Valueとしての機能を果たせなくなる、ということが常に起きる。

    市場価格に応じて供給量を調節できないビットコインというのは、市場価格安定という点では批判の対象となることが多いが、固定した供給スケジュールが変わらない、予測可能であるStore of Value,もしくはデジタルゴールドとして捉えた場合、強みでもある。


  2. 変更が非常に難しい(現実的に不可能)であること

    ①のポイントとも関連して、供給スケジュールも含めた特定の団体や管理主体による後方互換性のない勝手な仕様の変更が出来ないのがビットコインの価値源泉となっている。

    これはPoWのマイニングコストをかけたセキュリティ担保なども含むが、ユーザー、開発者、マイナーなどの複数の分散したステークホルダーの思惑が絡み合っている状況で、ハードフォークなどを通した変更を加えるのが非常にリスキーであり、現状維持(Status Quo)バイアスが存在し、変化しないということがゲーム理論的な均衡になっているのが、ビットコインの特徴である。

かなりかいつまんでいますが、上記のような点がビットコインがSound Moneyの機能を果たすのに重要であるという主張を展開しています。

 

The Bitcoin Standardの仮説から洞察されることは何か?

The Bitcoin Standardで展開されている主張が正しいとすれば、ビットコインとアルトコイン、ブロックチェーン技術全般に以下のような洞察が得られます。

 

  1. アルトコインの多く(もしくは全て)は、Sound Moneyとしての特性がないのでいずれ失敗する

    上記二点の、通貨の供給スケジュールが固定化され、それを変えることが現実的に非常に難しいというのは現状の暗号通貨ではビットコインのみである、と筆者は主張しています。もしそうであれば、ビットコインよりいかに速く安いコインが存在したところで、長期的にそれらのコインはビットコインと競争しているというよりは、既存の集権化された電子マネーのシステムなどと競合していることになり、長期的には政府や銀行などが発行したコインとの競争に勝つのは難しいことになります。

    よくビットコインとアルトコインの市場規模を比較することがありますが、上記の視点から考えてそれは本来は比較対象として不適とも言う考え方です。

  2. 今考えられているブロックチェーン応用の多くは無意味

    また、Ammousの主張の興味深い点の一つとして、彼はビットコイン以外のブロックチェーン応用のほぼ全てを切り捨てていることです。

    元々ビットコインはこのSound moneyを実現するために作られたシステムであり、それ以外の領域への応用は理解は出来るがそれは副次的なもので、Sound moneyを実現させる、もしくはそのMoneyを利用する以外のユースケースに関してはブロックチェーンより適切なアプローチ、テクノロジーがすでに存在するはずで、それらの多くは長期的には無意味であると主張しています。

    これは、オラクルなどの外部情報ソースに依存するスマートコントラクトや現実世界の証券やその他のアセットのブロックチェーン上でのトークン化も全て含めてです。

  3. 既存のお金の仕組みが非効率である限りビットコインに価値はあり続ける

    ブロックチェーン構造というのが、検閲耐性があり、変更が不可能なSound Moneyを作るためだけに生み出されたとして、既存のお金の仕組み(円やドルなどのいわゆるFiatと呼ばれるもの)が非効率である限りはビットコインには価値は存在し続けるはずです。これは現状のスケーラビリティの欠如による手数料が高騰する状況であっても変わりはないとしています。

    この視点からビットコインに最も近いのはゴールド(金)ということになりますが、例えば、1億円のゴールドをアメリカから中国に輸送するのにかかる輸送費が、ビットコインのトランザクション手数料を超え続ける限りはビットコインの方が優位性を持っている、などの点の指摘が非常に興味深いです。

 

Bitcoin Standard説への批判は何か?

自分はThe Bitcoin Standardの主張と個人的に自分の考えが近い部分もあり、主張はおおいに理解できますし、読み物としてもまとまっていて面白いと思いました。ただし、同時に以下のような批判も出来るとも思います。

 

  1. PoW不要論

    本の主張とは矛盾はしないが、Sound Moneyの要件を満たせるのであれば、別にPoWのいわゆるナカモトコンセンサスを使用する必要はないのではないか。もしそうであるとすれば、PoW以外のより効率的なマイニング方式で変更が難しく、供給量が限られているコインが出現したら、ビットコインではなく、そちらが勝つことになります。

  2. Bitcoin価格の不安定さへの批判

    この本では一般社会での実利用の上でのビットコインの価格の不安定性に関してはあまり記述がなかった気がします。確かにSound moneyとしてのビットコインが社会にいずれ価値を認められるとしても、価格が安定しない限りには日常生活での実利用は難しい部分も確かにありますし、もしそうであれば浸透にもかなりの時間がかかるのではないか、ということです。

    確かにデジタルゴールド、Store of Valueとしての存在意義を認める人は世の中に少なからずいるとは思いますが、一般の人はそんなことより何か便利なことに使えるか、などを当然重視する傾向があります。現代社会で大部分の人がゴールドを保有はしておらず、日常的にゴールドを使用する人がほとんどいないのがその証拠の一つとも言えるかもしれません。

  3. Digital Cash以外の応用のポテンシャル

    AmmousはSound money,Digital Cash以外のブロックチェーン応用はほとんど全てバッサリ切り捨てていますが、同時にもともと特定のユースケースのために作られたものが進化し、別の応用領域でも予想外に効果を発揮する可能性も捨てきれないとは思います。(同時に今のブロックチェーン応用の多くが筋が悪いというのも個人的にも同意しますが)

    なので、仮にもし彼の主張が正しかったとしてもその他の分野での応用や実験というのは引き続き意味があるのではないか、という反論をすることは出来ると思います。

 

考察

というわけで、Sound moneyとしてのビットコインに長期的に価値があるとする上記の主張は中々興味深いと思います。

 

当然上記主張に(全く)賛同できない人も少なからずいると思いますが、ビットコイン及びその他のアルトコインの根源的価値(の欠如)とは何か、ブロックチェーンの応用の意義と無意味さはどこにあるのか、というのをオーストリア派経済学の視点から分析しており、主張の一つとして理解しておいて損はないかと思いました。上記の紹介はあくまで一部なので、興味のある人は是非自分でAmazonとかで自分で買って読んでみてみてください。

 

特にここしばらく入ってきた人たちの特徴として、単純な手数料やスピード、柔軟性、企業とのパートナーシップの有無などの点のみを重視したり、ビットコイン自体は調べもしないし、関心がない人も多いと思います。ただし、仮想通貨全ての起点になっているビットコインの設計が特定の目標を実現させるためになされたものであるなら、もしその他のコインへの関心の方が強かったとしても、オリジナルの設計思想を理解しておくことは非常に重要だと思います。

 

じゃあ最後に結局ビットコインは買いなのか、という話ですが、まあ上記のような仮説が自分自身で納得、信じられるなら長期的に保有しても問題はないとは思います。ただし、短中期ではもっと振り落としがあるかもしれないですし、ビットコインも仕様変更の波に飲まれて上記の仮説が破綻したり、ビットコインより良いものが出てくる可能性も当然否定はしきれません。

 

いずれにせよ、しばらくパチンコ玉やペニーストックみたいな形でなんでもかんでも仮想通貨を買って上がった下がった、というような現象が特に去年は凄かったですが、市場も大分落ち着きを取り戻し現実が見え始め、こういう経済学的もしくは技術的な観点から優れたもののみが長期的には生き残っていくという動きが増しているという見方も出来るかもしれません。それは暗号通貨(仮想通貨)市場全体としては健全だとも思います。

 

ビットコイン以外のコインのファンダメンタルズ材料について

 

今回の話はビットコインの存在価値に関する話でしたが、他にも今後注目されるトレンドやコイン、またそれらのトレンドへの批判や懸念などのファンダメンタルズ材料については、今回の市場下落のタイミングでビットコイン研究所の方で一部まとめました。興味がある方はそちらも是非ご参加ください。具体的なトピックとしては、

・イーサリアムの苦境
・PoSコインの将来性
・ICOコインはもうゲームオーバーか
・ガバナンスコインは本当に機能するのか

などです。


また、どのコインが上がる下がるという話ではなく、暗号通貨の仕組みや課題、最近のトレンド、安全にコインを管理するセキュリティ体制の構築ど、より根本的な部分の知識を蓄えておけば、短期的なノイズは結構無視できるようになると思います。