ビットコインダンジョン2.0

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トークンエコノミーとビットコイン価格がもっと上昇しなくてはいけない理由

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ビットコイン価格がここ数日いきなり20%以上高騰しています。

直接の理由はわかりませんが、7月に予定されているマイニング報酬の半減期の影響もあると考えられています。すでにご存じの人も多いと思いますが、10分に一回のブロック生成に与えられるマイニング報酬が25btcから12.5btcに引き下げられ、マイナーに与えられるビットコインの絶対数が半減します。

 

これは当然マイナーにとっては大きな変化ですし、もしビットコイン報酬の数が減ってもビットコインの市場価格が上がらないとなると、マイナーの収益性が悪化し、離脱するマイナーや、マイニングのさらなる中央集権化、承認時間の遅れなどによるネットワークの混乱が起こる可能性があります。人によってはビットコインネットワークはこの変更に耐え切れず崩壊状態になるという最悪の予想をする人もいます。

 

 

実際、ビットコイン価格が7月の半減期までに上がるのか、上がらなかった場合どうなるのか、というのはちょっと自分には正確な予想は出来ませんが、実は今回の半減期のマイナー報酬だけでなく、トークンエコノミーなどもっと大きな文脈で考えても、ビットコイン価格がもっと上昇する必要性があると自分は考えています(と願っています)。

 

今日はちょっと小難しいかもしれないですがビットコイン価格が上昇中ということで、パブリックブロックチェーン上にトークンを発行する行為とマイナーの経済インセンティブについて簡潔に説明してみます。

 

ブロックチェーン上でのトークン発行が流行ってますが

少し前から国内でもカウンターパーティなどを利用して個人的にトークンを発行して遊んでみたりする人が増えていますし、Zaifなどの企業もZAIFトークンを発行したり、ICO(クラウドセール)のためにトークンが発行されたりなど、ビットコイン業界の中ではトークンの発行というのはもう常套手段になっています。

 

簡単に言えば、ブロックチェーン上で自分のコインもしくは「トークン」(と呼ばれることが多い)を発行して、何かの権利や、価値、記録などをブロックチェーン上で発行、確認、移動、追跡、トレード可能にすることです。

 

例えば、このブログでもCNPCOINというこのブログ専用のトークンを作り、それを読者に配ったりして、CNPCOIN保有者にのみ見れるメルマガを送ったりしていますが、平たく言えばCNPCOINは自分が提供するサービスへの権利がブロックチェーン上でトークン化されたものです。

 

同様に、金融機関などもブロックチェーン上で有価証券をトークン化して発行し、システムコスト削減やセトルメントリスクの軽減などを狙っているわけです。そう言われると小難しく聞こえますが、例えばAppleの株を、Appleコインとしてブロックチェーン上で発行して、ユーザー同士がビットコインみたいな感じでウォレットから送受信、トレードなど出来るようにすることです。それ自体は実は大した話ではないです。すでにOverstockという企業が自社株をブロックチェーン上のトークンとして発行したりもしていますし、前例も出来てきています。

 

トークン発行はビットコインのブロックチェーンが使われることが多い

 

トークンの発行にもカラードコインやカウンターパーティのようなビットコインのブロックチェーンとマイニングを利用したプロトコルもあれば、EthereumやNXTなどいわゆるアルトチェーン上でネイティブにトークンを発行できるブロックチェーンもあります。

 

ただし、トークンのIoTへの利用、株式の発行など、トークンを使ったプロジェクトの多くはビットコインのブロックチェーンを選びます。IoTによく使われるOpen Assetsはビットコインのカラードコインの一つ、企業と実証実験をやっているColuもビットコイン上のカラードコイン、すでにブロックチェーン上で株式発行をしているOverstockもビットコインのブロックチェーンを利用しています(変更されていない限り)

また、トークン発行だけでなく、Factomなどの公証人サービスやプライベートチェーンのトランザクションをビットコインのブロックチェーン上にアンカリングする手法も一般的です。

 

これはなぜかというと、巨大なハッシュパワーに支えられたビットコインのブロックチェーンが現時点で最もセキュアで改ざんが困難だからです。一度ビットコインのブロックチェーン上のトランザクションとして記録され、一定承認数以上つけば、確率論的に後でほぼ改ざん不能と判断できるようになります。この改ざん不能性はその他のアルトコインと比較して、ビットコインのブロックチェーン上の大きな優位性といえます。



言い方を変えると、ビットコインマイナーが一生懸命守ってくれているビットコインネットワーク上で、トークンを発行したり、記録をアンカリングしたり、タダ乗りしているということになります。

 

このトークンなどの「タダ乗り」(Free riding)が実はビットコインマイナーのインセンティブとのかい離を生み出し、将来的に問題を引き起こしかねないのです。

 

ビットコインマイナーにとってのインセンティブ(動機)

 

ビットコインはマイナーが自分の利益追求をして電力を消費しトランザクションの承認(ブロックの発見)を競いあうことで、特定の個人や企業、団体への信頼や依存なしでもインセンティブ、ゲーム理論的にネットワークが分散的に動き続けるというところに端的に言えば革新性があります。

 

このマイナーは自分の利益を最大化するのが目的というのは非常に重要で、逆に言えばマイナーは自分が消費するコスト以上の売上(マイニングによるビットコイン報酬+トランザクション手数料)を上げられなければ、基本的にマイニングをするインセンティブはありません。

 

ビットコイン上の送金が全てビットコインそのものである場合、インセンティブ設計的にそこまで問題は起こらないと考えられますが、問題はビットコインのブロックチェーン上にトークンの形で様々な権利や、改ざんされるとまずい記録などを多くのプロジェクトがビットコインマイニングのパワーにタダ乗りしてブロックチェーン上に記録し始めたことです。

 

これは記録する権利の価値が低ければおそらくそこまで問題はないのですが、もしAppleとGoogleがそれぞれの株をビットコインのブロックチェーン上でトークンとして発行したと考えてみましょう。 AppleとGoogleの企業価値を足すと100兆円以上、価格が今と変わらないと想定するとビットコインの市場価値は1兆円程度なので、ビットコインネットワーク自体の100倍以上の価値がブロックチェーン上に記録されることになります。

 

こうするとビットコイン自体の送金価値より、ビットコイン上で移動されるAppleとGoogleの株トークンの価値の方が大きくなることが容易に想像できます。

 

問題は、ブロックチェーン上で移動されるビットコインそのもの以外の価値が数兆円規模になったとしても、それらはビットコインマイニングにタダ乗りしているだけで、ビットコインマイナーに与えられる報酬は変わりません(12.5btcと想定しましょう)

 

ビットコインマイナーは自分の利益最大化が目的なので、どんなにビットコイン以外の価値の移動が増えようが、12.5BTC/10分以上のコストをかけることはしません。現在のレートで70万円程度です。

 

結果として何がおこるかというと、流通する価値に比べて、消費される電力(Work)、つまりビットコインのセキュリティーや改ざん不能性が低い状態になり、外部からの攻撃やマイナーへの賄賂など、経済インセンティブの面から大きなセキュリティーの脆弱性になる可能性があります。

 

例えば、Apple株をブロックチェーン上で10億円分移動したブロックを採掘したとしても、マイナーからみたら手数料が多くもらえるわけでもない通常の少額のビットコイントランザクションとみなされます。別にマイナーに特別にその10億円分のApple株のトランザクションを優先したりする特別なインセンティブもありません。


なので、ハッカーなどがビットコインネットワーク外で12.5btc以上の賄賂などをマイナーに提供し始めたとしたら、マイナーが結託して数承認以上ついたトランザクションをひっくり返したり(ダブルスペンド)、他にも様々な攻撃が起こる可能性があります。マイナーは賄賂をもらった方が正直にマイニングするより儲かるならそうするでしょうし、ビットコインのデザイン的にそういう風に想定しなくてはいけません。

 

結果として、大きな価値の移動やセトルメントに向いていたはずのビットコインが、マイナー報酬とインセンティブのかい離が原因で、期待されるようなセトルメントレイヤーとして機能しなくなってしまう可能性があるということです。

 

マイナー買収などを防ぐには


上記のように 、ビットコイン以外の様々な価値や権利がブロックチェーン上で流通し始めると、マイナーのマイニング報酬のインセンティブと実際に流通される価値がかい離し、ビットコインブロックチェーンがセトルメントレイヤーとして機能しなくなるリスクがあります。

 

それを防ぐために最もシンプルな展開が、ビットコインが一般浸透したり、将来の可能性を見込んでビットコインの市場価格が高騰し、マイナーの賄賂、ネットワークへの攻撃などにかかるコストもそれにつれて上昇。市場原理からネットワークのセキュリティーが守られ、トークン発行、権利記録などのセトルメントレイヤーとしての機能を保持するパターンです。

 

なのでビットコインの価格が上がるのは、もちろん関連している人が嬉しい、士気が上がる、一般層からの興味が増すなどの意味合いもありますが、ネットワークのセキュリティー、特にビットコインブロックチェーンがビットコインのみならず様々な権利のセトルメントレイヤーとして機能するには非常に重要な意味を持ちます。

 

なお、ここらへんの話はミクロ経済学的にかなり面白い話で、価格上昇以外にも複数の要因、対策が考えられます。

 

例えば、中央集権化が進めば進むほど特定のプール運営者を買収したりするのは簡単になるので、地理的、ハッシュレート的にどれくらいネットワークが分散化されているかも重要な要因です。

 

他には、マイナーのマイニングインセンティブと企業のセトルメントレイヤーとしての利用のインセンティブを合わせるために、例えばAppleがネットワーク利用料としてマイナーにAppleトークンをマイニング報酬として配ったりとかそういう補助金政策も有効かもしれません。(ただし、このフリーライダー問題はそこまで簡単なものではないですが)

 

もしくは、以上のような理由でビットコインはセトルメントレイヤーとして不適で、ブロックチェーン上での有価証券発行は企業などの集合体が管理するプライベートチェーンで行われるようになるのかもしれません。今の企業の流れは全体的にこの方向性に近いですね。

 

ここらへんはひじょーーに面白く自分ももっと深く考えてみたいですが、残念ながら自分の付け焼刃かつほぼ忘れてしまった経済学の知識では具体的にどうすればいいか、何が起こるかなどを正確に予測するのは難しいです。むしろ経済学の教授とかに研究してもらって色々教えてもらいたいです笑

 

最後に

 

というわけで、短期的なビットコイン価格の上昇によるトレード益などで喜ぶのもいいと思いますが(もちろん自分も多少は嬉しいです)、この機会にむしろ価格上昇の中長期的なネットワークの影響とかに思いをはせるのが真のビットコイナーなのではないでしょうか笑


スケーラビリティの問題も解決はしていないですし、色んな面で本当の正念場はここからでしょう。

 

それでは。

 

※このコンセプトはR3のTim Swansonがパブリックチェーン上のトークン発行を批判した論文の内容を参考にしています。より詳細な情報に興味がある人は論文を直接読んでみてください。

 

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