ビットコインダンジョン2.0

Bitcoin (ビットコイン)やブロックチェーンを技術に詳しくない人たちのために、面白おかしく、そして真面目に語ります since 2014

仮想通貨投資にかかる税と取引所の監査を考える

(Image from bitcoin.tax)

 

ライブで聞いてくれた人も多かったと思いますが、昨日「ビットコイナー反省会」の毎月恒例の放送で、「ブロックチェーン会計士」として活動されている柿澤さんをお呼びし、今月のニュースの振り返りだけでなく、仮想通貨投資(含み益)にかかる税金についての考え方、また今年から始まった仮想通貨取引事業者への監査の世界についての議論を公開放送しました。

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詳細は是非動画を直接確認して欲しいですが(ついでにチャンネル登録も是非!)、税金の話は当然注目が高いトピックではあるのはもちろんですが、監査の世界で今まで自分もあまり考えたことのなかった取引業者、監査法人の悩みや実態などかなり興味深かったです。

以下のような話が出てきました。

  • 仮想通貨と円(JPY)のトレードを取引所内でした時点で毎回利確されるという認識で、特にトレード頻度などが多い人たちは取引履歴をCSVか何かに出力し、申請する必要がある(これはすでにやっている人が多そう)
  • ビットコインの店舗支払い(ビックカメラ方式)は現実的に捕捉するのが難しいので毎回課税するのは現実的かという疑問もあるが、物々交換という視点でみれば含み益分を課税される可能性はなくはない
  • ビットコインデビットカードの利用は円への変換のタイミングなどにもよるが、少なくともビットコインでの直接支払いよりは課税対象になる可能性が高そう
  • ビットコインとアルトコイン間でのトレードにも含み益の課税対象になるのかまだわからないが、仮に対JPYだけでなく、対アルトコインも課税対象になるとすると、トレードの戦略も大きく変わるし、場合によっては含み益より課税対象金額が大きくなってしまったり、大量に儲けを出しても課税対象にならない可能性も(想定されるシナリオが複雑で今のところは妄想の範囲内になってしまうが)
  • 他には例えば、ICOに参加した時点で利確したとみなされ課税される可能性もゼロではない
  • 消費者保護、内部の人間の不正利用などが出来ないように取引事業者を監査する必要がある。監査は取引所にとってかなりのコスト負担になり、今後小規模の事業者の参入は難しいのではないか。
  • ただし、時価レートをどこから取得してくるのか、外部エクスプローラーを信頼できないため自前でフルノードを立て、残高検証する必要があったりなど、監査法人にもかなりの技術力や関連技術への理解が求められている
  • また、匿名系のコイン(Zcash、Moneroなど)はそもそもブロックチェーン上で残高の確認や証明をするのが難しかったり、監査法人もかなり頭を悩ませている

 

 

などです。

 

税金の話だけでなく、普段聞くことのできない監査の世界だったり自分たちもかなり勉強になりました。是非ビデオも見てもらえれば。

 

 

ICOの理想と現実の乖離 ICOの光と闇②

ICO(Initial Coin Offerings)のハイプが少し前からブロックチェーン界隈以外にも本格的に広がっており、日本のVC、起業家なども大きく興味を持ち始めているようです。懐疑的な人もいますが、多くはシリコンバレーのVCなどに影響され、ICOは未来の資金調達方法だ、今までのVC業界などの常識が変わる可能性がある、などとポジティブにとらえている人が多い印象です。

この見方は必ずしも間違いではないですし、やり方と今後の展開次第ではICOは確かに企業やオープンソースプロジェクトの資金調達方法の一つとして定着する可能性もあると自分も思うのですが、同時にICOの夢物語解説では説明されないICOの「ひどい」「汚い」世界が実際は広がっているというのも事実です。


今日はICOの光と闇シリーズ②ということで、ICOのポテンシャルと現状の問題について説明し、最近ICOに夢を見始めたVCや企業がまだあまり見えてない「ICOの汚い世界」の一部を紹介します。

 

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(image by トレストさん )

 
(なお、シリーズ①では「投資としてのICO」について紹介し、次のシリーズ③では、なぜICOは現状のような課題を抱えているのか、ICOのスキーム、インセンティブ構造などの根本的欠陥について指摘する予定です。)

以下に動画でも同様の内容+Synereo、Bancor、EOS、Tokecardのケーススタディを解説しています。

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ICOとは?


まず簡単にICOとは何かについて説明しなくてはいけないですが、これについては他にもICOについて書いた記事があるのでそちらも参考にしてください。


端的に言えば、(基本的にはブロックチェーン関連の)新規プロジェクトや会社の立ち上げ、もしくはすでに存在するプロダクト用に独自のトークン(コイン)を発行し、それを一般に向け販売し、プロジェクト開発に必要な資金を調達する行為、という理解で問題ないです。

 

ICO自体のコンセプトは2013年~2014年くらいからすでに存在するもので、例えばスマートコントラクトプラットフォームとして定着しているイーサリアム(Ethereum)は2014年にEtherを先行販売することで、イーサリアムのコンセプトの実装にかかる開発費を市場から直接調達しました。(その後Etherの価格はICO時の数百倍以上になっているわけです…)


では、ICOは本当に画期的な資金調達方法なのでしょうか?そして、なぜここに来ていきなりICOへの注目が加速しているのでしょうか?

 

ICOのポテンシャルとは?


ICOの新規性やポテンシャルには以下のような点が挙げられます。

1.誰でも世界中どこからでも投資として参加できること

ICOの強みとして、一部の投資家や証券会社などが優遇されるIPOのスキームなどと違い、プロジェクトの初期から誰でも「投資者」もしくは「支援者」として世界中どこからでも、少額から直接参加できることです。また、法律の整備と共に法的な位置づけは日々変わってきてはいますが、現状のスキームではある程度の匿名性を維持したままICOに参加し、投資活動が出来るのも特徴です。

 

これに関して、廣瀬さんがICOについて書いた記事で以下のように述べています。

 

まず、1億円の資産をもつ裕福層だけがベンチャー・キャピタルに投資できるというのは腹立たしいし、IPOの際に個人投資家は後回しというのも、ずいぶん見下した態度です。

それに比べると、冒頭で紹介した暗号通貨の事前販売は、誰でも参加できるので機会平等かつ民主的です。

 

自分個人としても最初にICOの仕組みについて知った時に、確かに証券会社などの中間業者が入って来ない参入障壁の低さに魅力を感じましたし、逆に言えばいちいち間に会社などが入ってくる株式購入などには今の時点で自分はそこまで魅力は感じられません。


2.新規プロジェクトの画期的な資金調達手段

二つ目に、企業の視点から見て、ICOは新しい資金調達の手段として魅力的であり、実際に今年に入り多数の新規プロジェクトがICOを行い、開発資金の調達に成功しています。

Coindesk
のレポートによれば、17年の6月9日時点で、ブロックチェーン関連プロジェクトへの今年の累積ICO調達額は、伝統的なVC投資額を越えており、300億円以上まで膨れ上がっています。中には数十億円、もしくは100億円以上の資金調達に成功するプロジェクトもすでに少なからず出てきています。

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(なお、この記事の発表から現在6/23までに100億円相当の調達を成功させるプロジェクトが複数出てきており、今の時点でICO調達額は500億円を軽く超えています)


ICOの実施は、少なくとも今の時点ではVCからの資金調達、もしくはIPOなどの伝統的なプロセスよりはるかに簡単で、基本的にはプロジェクトの構想やコンセプト、技術的詳細をまとめた「ホワイトペーパー」さえ書ければ、実質誰でもビットコインやEtherを利用して世界中の投資家から資金を調達できます。

そして実施の障壁が低いだけでなく、プロジェクト初期に集められる金額もVCからの調達より大きいのであれば、企業としてはこれほど魅力的な資金調達方法はありません。結果として、ICOをするプロジェクトの数は現在急速に増えており、ほぼ毎日何かしらの新規案件が発生している状態です。


3.トークン投資者と開発者間のWin-Win関係の構築

 
また、トークンを発行するメリットの一つとして、トークン購入者と発行主体(開発母体)の間でプロジェクト成功へのインセンティブを揃えられる可能性が挙げられます。

 

株のイメージで考えればそこまで難しくないと思いますが、トークン保有者はプロジェクトに投資するだけでなく、積極的にプロジェクトに参加しネットワークを広げていくことで、トークン価格のさらなる上昇を期待できます。(しかし、本来これはトークンの組み込み方、設計次第なのですが、この点は詳しくは次の記事で考察します)

また、ICOの仕組みを利用することで、今まで収益化が難しかったオープンソースプロジェクトの開発資金調達とネットワーク効果の付与が出来る可能性があるという側面もあります。この関係性については、ビットコイン研究所の大石さんの「レールウェイモデル」の記事が興味深いのでこちらを確認してください。
 
ICOの上記のようなポテンシャルは2~3年前位から議論はされてはいましたが、特にここ半年ほどで暗号通貨の投資家層が劇的に増えたこと、著名VCの参戦、法律の整備などもあり、結果としてICOプロジェクトや総調達金額は日々増え続け、ICOへの認知と注目が大きくなってきているわけです。

ICOの暗い現実


上記のような点を考えると、ICOは投資家、企業双方にメリットが認められる画期的な資金調達の仕組みに見え、実際にシリコンバレーのVCなども盛んに推し始めていますし、それを追って日本のVCや企業、著名人などもICOに注目し始めています。

ただし、正直に言えばここ数か月でICOを「発見」した層の多くは、同時にICOの現実は実際には過剰な煽りや詐欺などにまみれたひどい状況である、ということにまだ気づいていません。理論的には良さそうだ、ということなのかもしれませんが、この領域ではすでに2014年くらいから数多くのトライアル&エラーが行われており、その結果は今のところ控えめに言っても理想の美しい世界ではありません。
 

 

ICOの現況として以下のような問題点が挙げられます。

  

1.中身のないプロジェクトによる大型調達


ICOの現状の最も大きな問題点の一つに、低レベル/中身がすかすかなプロジェクト、MVPすら存在しないプロジェクト、経験の浅いチーム、などでも簡単に数億円~数十億円、場合によっては100億円以上の資金を調達出来てしまうような、過剰評価、調達額の膨張の問題があります。

例えば、先々週にクラウドファンディングプロジェクトとして史上最大の150億円相当以上のEtherを調達したBancorというプロジェクトがありますが、ICO終了後直後からプロジェクトのトークン変換モデルの欠陥などがすでにコミュニティー内で強烈な批判にさらされています。

他にも、つい2、3日前にEtherで100億円以上の巨大調達を成功させたStatusというプロジェクトも、コンセプト自体は個人的には特に問題はないと思いますが、現時点では明らかに100億円以上の規模の調達を正当化できるようなものではないと自分は感じました。

 

他にも例を挙げればきりがないですが、一言で言えば最近ICOを行うプロジェクトの全てが明らかに過大評価されているというのが自分の感覚ですし、コミュニティーの大部分が同様の見方をしていると言って差し支えないと思います。


2.詐欺の温床

上記は実力不足、中身があまりないプロジェクトに対する過剰評価に対する懸念でしたが、壊れた評価額は別として少なくともまだ意図は善良なものと言えると思います(まあ判断は難しいですが)

しかし、実際にはそれと同数以上に完全な詐欺、もしくは詐欺的と言っても問題ないようなプロジェクトも多数存在します。

例えば、イーサリアム上の複数トークンに対応したデビットカード「Tokencard」というプロジェクトはICOが終了するまで、「VISAのネットワークを利用」していることを大々的にアピールしていたのですが、Financial Timesの記事でVISAからTokencardとは何も関連性がないという公式の回答があったとすっぱ抜かれています。

(現在TokencardのウェブサイトのカードイメージからはVISAのマークは抜かれています…)


Tokencardが詐欺かどうかは断定はできませんが、他にも過剰広告、虚偽の宣言、また過去に詐欺行為などを行ったと噂される人物の関連などがあるプロジェクトも多いですし、SynereoのようにICO直後に主要メンバーが抜けたり、資金が集まり次第開発をやめたり、資金を直接関係のないことに使い込んだりするケースも後を絶ちません。そして問題はそのようなプロジェクトでも、ブロックチェーンをほのめかして簡単なホワイトペーパーとウェブサイトを用意して暗号通貨で資金を募るICOをすることで、簡単に数億円以上の資金を集められてしまう現状があることです。

自分でもある程度細かくICOをするプロジェクトについて調べることも多いのですが、感覚的には全体の9割ほどがあまり筋のよくないプロジェクト(過剰な煽り、ブロックチェーンを使用する意味なし、など)、もしくは詐欺プロジェクトであると言っても問題ないと思います。

 

3.プロダクトをリリースしたICOプロジェクトは今のところほぼ皆無

 

上記二点に対して、調達金額は期待値を現したもので妥当な範囲で過剰とは言えない。また、このようなプロジェクトにリスクはつきもので、プロジェクトが中長期で成功、拡大していくことで、調達額に見合う結果を出せるはずだという反論もあるかと思います。

では過去を振り返った時に、ICOをしたプロジェクトで成功したプロジェクト、もしくはICO時に約束していたようなプロダクトをリリースできるプロジェクトが2014年以降あったかというと、自分が知っている限り答えはほぼ皆無です。ゼロに近いです。(イーサリアム、Lisk、Wavesなどのプラットフォーム系は成功の判断が難しいので対象から抜いています)

 
最近巨額の資金を調達したプロジェクトにも必ずしもこの理論が通用するかはまだわからないですが、調達金額や手法、一時的なトークン価格の上昇にばかり注目される一方、プロダクト開発の視点から見ると今のところ壊滅的という事実は知っておいた方がいいでしょう。



4.不平等なトークンの分配

また、ICOの強みとして「誰でも参加できる公平なモデル」という点を挙げましたが、現実的には調達額の上限をもうけたり、特定のアドレスからの送金を優先したりすることが原因で、結局トークンを手に入れられるのは一部の投資家やインサイダーのみになっているという問題もあります。

これに関しては次以降の記事で詳しく説明しますが、みんなが平等に参加できるICOの理想とはまだほど遠いです。 

 

 

上記以外にも。イーサリアムの場合は過剰なICOがネットワーク全体に影響を与えたり、ICOがシステマチックなリスクになっているという指摘もあります。(イーサリアムとICOの関係については、詳しくは自分が前回書いたこちらの記事も読んでみてください)
 

まとめ

ICOがブロックチェーン業界外でも「再発見」され、投資者、企業双方にメリットのあるより平等で自由な調達モデルとして期待され始めている理由も理解できる一方、現実は過剰評価、詐欺、プロダクトデリバリーの不在など問題点の方が大きく膨れ上がっています。過去に暗号通貨全体のバブル的現象が起きているという指摘もしましたが、ビットコインやアルトコインの値上がりが一段落した今、余剰資金がICOに流れ込み、上記のような問題がさらに悪化していき、最終的に壮大な崩壊劇が待っているのではないかと懸念する声も多いです。


ではなぜこのような状態に陥ってしまっているのか、現状の問題を解決してより健全で効率的なICOを今後実施していくことは可能なのかという点について、次回の記事で自分の考えをまとめます。自分の今のところの結論は、ICOというスキームにはそもそも構造的な欠陥があり、壮大なICOプロジェクトの崩壊劇(とバブルの繰り返し)、もしくは規制者の介入などがないと現状のような問題は根本的に改善しないと考えています。

イーサリアムICOバブルの形成と崩壊シナリオ

 

ここ1、2か月で大きな変化が暗号通貨業界で起こっています。

 

ビットコインのスケール問題はすでに耳にタコが出来るくらい聞いている読者も多いと思いますが、イーサリアムの躍進、特にEther価格の急騰とビットコインへ迫る勢いのEtherの市場規模は今最もホットなトピックでしょう。

 

btcnews.jp

 

すでにFlippening Watchというサイトまで用意され、ビットコインとイーサリアムの市場規模、トランザクション数などを比較して、イーサリアムがビットコインを抜かすのをカウントダウンしている人たちもいるような状況になっています。

 

なぜここまでEtherの価格は急騰しているのか、今のトレンドは持続可能なものなのか、この後どのような展開になることが予想されるか、などの疑問について今回は考えてみます。


結論から言えば、ICOの熱狂が続く限りEtherの価格は上がり続けるが、同時にそれは自分たちで深い落とし穴を掘り続けているようなものであり、このままでは結局その他のプラットフォームなども巻き込んだ大きな崩壊は避けられないだろうというのが自分の予想です。

 

イーサリアムの躍進とEther価格高騰の理由


コインの価格変動に正確な理由をつけるのは難しく、結局大部分は投機的な動きに支配されていると言えばそれまでだと思いますが、考えられる最近のEtherの高騰の直接の理由をいくつかあげます。

EEA(Enterprise Ethereum Alliance)

EEAは簡単に言えばイーサリアムの技術の一部を応用した企業連合体です。本来はEEAは根本的にはパブリックチェーンとしてのイーサリアムとは別物ですが、ToyotaやSamsung、世界的に有名な投資銀行などの名だたる企業がEEAに参加することにより、イーサリアムへの安心感、期待を抱いている投資家も少なからずいると思います。

 

メディアなどでの露出

EEAのニュースなども含め、イーサリアムをカバーする一般メディアなども増えてきています。また、イーサリアムの創設者であるVitalikがロシアのプーチン大統領と会談したというニュースが出てきたり、国連でイーサリアムを利用したプロジェクトに取り組んでいるなど、国家レベルでイーサリアムに注目する動きも出てきており、メディアでの露出増は間違いなくEther価格の上昇の大きな要因の一つでしょう。他にも有名VCでイーサリアムを積極的にエンドースする人たちも出てきています。

 

イーサリアムを利用したICOプロジェクト続出

そして最後に本日のメインのトピック、ICO(Initial Coin Offerings)がEtherの価格上昇を後押ししているという説です。

 

すでにご存じの人も多いと思いますが、ここ半年から数か月ほどでイーサリアム上でERC20という規格を利用したトークンを発行し、それを一般投資家(ユーザー)に事前販売するICOというスキームが異常なほどの熱狂を見せています。

ここ二か月内のものだけでも、ちょうど昨日ICOをしたBancorが数時間で150億円以上、Basic Attention Token(BAT)が30秒で(!)36億円以上、MobileGoが50億円以上の資金を調達しています。繰り返しますが、上記は今年の4月から6月までに間だけのごく一部です。ものすごいことになっています。こちらでICO予定のプロジェクトのリストが見れますが、ほぼ毎日何かしらのセールがあるような状態になっています。

上記のようなイーサリアムを利用したICOの投資手段としてEtherが使用されており、ICOへの投資需要が増すほど、Etherへの買い需要が高まり、かつ投資されたEtherはICOプロジェクトにロックアップされることで市場での供給量が減り、さらにEtherの価格が上昇するというサイクルが回る結果、Etherの市場価格を押し上げているというのも大きな要因の一つでしょう。

 

それぞれの要因の貢献度に具体的な数字を当てるのは難しいですが、現在のEtherの価格高騰にICOへの投資需要が果たしている役割は過小評価出来ないと思います。

 

ICOはEthereumのキラーアプリなのか? 

ではなぜここまでイーサリアムを利用したICOが盛り上がっているのでしょうか?

直接の理由として、ERC20トークンの定着化などの要因が挙げられ、特にここ半年ほどでイーサリアムを利用してICOをするプロジェクトが急増しており、ICOこそがイーサリアムのキラーアプリであるという論調も見られます。


ICOにEthereumを使うメリットとして、

  • トークンの自動スワップ

    イーサリアム上で生成できるERC20トークンには、指定のアドレスにEtherを送ることで自動的にトークンを送り返してくれる機能が備わっています。これは実際かなり便利な機能で、これのおかげでICOの実施の障壁がかなり低くなりました。

  • ガスリミットや期間の指定などスマートコントラクトによる条件設定

    他にもイーサリアムを使うことで、ガスリミット(送金手数料)による送金条件の自動設定、ブロック○○までの期間限定のセールや変換率の変更と自動化などオンチェーンで条件を細かく設定できるのも便利です。

  • ERC20トークンを利用した外部ツールなどの存在

    ERC20トークンを利用した分散取引所、その他のツールなども増えており、特に開発力のないICOプロジェクトでもそれらのツールに「タダ乗り」することが出来、開発工数を減らしたり、パートナーシップなどを通したプロモーションをしたりできます。
  • 「スマートコントラクト」への単純なハイプ

    後はこれはもう非常に短絡的な話ですが、「スマートコントラクトによる分散アプリ(Dapps)」というコンセプトに対するハイプのようなものもあり、仮に全く同じ機能や設計をビットコイン及びその他のブロックチェーンんでやるよりイーサリアムで「スマートコントラクト」を使うと言うだけで、より多くの金額が集まる、という面も正直に言うとあります。

 

上記のようなことを考えると、確かにICOのスキームとスマートコントラクトは非常に相性がよく、ICOをするプロジェクトがスマートコントラクトプラットフォームの代表格であるイーサリアムを選ぶのも納得できます。

これは前から言っていることですが、スマートコントラクトの今のところの実用的使い方は結局はオンチェーン上でのスワッピング、もしくはギャンブルなであり、トークンの生成とコードにより決められた条件に基づいたオンチェーン上でのトークンの分配や集金手段としての利用は上手くはまっています。

では、ICOに対する注目や需要が高まり、スマートコントラクトの効果的な応用方法として認識されることで、今後もイーサリアムはこのスピードを持続して成長していくのでしょうか?

 

自分はむしろ全く逆で、現在のICO相場は完全に自分の墓穴を掘っているような状況で、いずれはイーサリアム、およびその他のプラットフォームを巻き込んで壮大な崩壊劇になるのではないかと考えています。

 

現在のイーサリアムの成長(Etherの高騰)は持続可能なのか?

ICOの盛り上がりなどもあり大きく高騰しているEther価格ですが、これが全く持続可能ではない理由を以下に挙げます。


1.ICOプロジェクトの大半はスキャム(詐欺的)ほぼ全て将来的に失敗する。

まずイーサリアム上のICOプロジェクトが多額の資金調達を成功させ、調達金額は日に日に増えているような現状ですが、現在ICOをやっているプロジェクトの大半は実現可能性が低かったり、期待ばかり煽っていたり、スキャム(詐欺)と呼んでも差し支えないようなものがほとんどです。これに関しては自分だけでなく、その他の業界内部の人間だったり、イーサリアムコミュニティー内の開発者ですら同意するでしょう。


 一つ一つ個別に細かくデューデリジェンス出来ないとしても、冷静に考えて、まだ何も機能的なプロダクトすら出していないようなプロジェクトに、見た目がきれいなウェブサイトとそれっぽいことと夢が詰まっているホワイトペーパー(何かテストの裏に夢を書いて紙飛行機にして飛ばすなんて曲もありましたね…)を書くだけで、簡単に数億円以上の資金が調達できる現状はどう考えても異常です。


当然ほぼ価値のないものに対して数億、数十億円の評価がついているような状況は中長期的に見れば持続不可能で、最終的には多くのプロジェクトの崩壊によるトークン価格及びEther価格の急落、プロジェクト開発陣による資金の持ち逃げ/使い込み、もしくはThe DAOの時のようなコントラクトのバグをついたハック騒動のリスクも日に日に増していると言えます。

ICOはイーサリアムの応用方法としては相性がいいと言いましたが、これは同時にスキャマーにとっても都合の良い仕組みが出来上がっているともいえます。

(なお、なぜ現状のような状況になってしまっているのか、ICOの構造的欠陥についてはこの次以降の記事で別に説明します)
 

2.盛り上がるICO。追いつかないインフラ開発。


そしてICOへの熱が加速する一方、イーサリアム自体のインフラ開発のスピードとの乖離などの観点から、現状に大きな懸念を示している人はイーサリアム開発者の中でもいます。

特にイーサリアムの開発の中心メンバーの一人で、現在Casper PoSとShardingについて研究を進めているVlad ZamfirさんがBitcoin Uncensoredのインタビューで語っている内容は興味深いです。要点を抜粋すると、

  1. 現在のICO熱狂は率直に言って行き過ぎ。今のICOの状況はイーサリアムにとってシステマチックリスクになる可能性がある。
  2. 現在のイーサリアムトランザクションの多くはERC20トークン(ICOコイン)のトランザクション。イーサリアムの現状の主な用途はERC20トークンのマルチシグ管理など。
  3. 仮にコミュニティーが現状のインフラ開発の進捗具合などを正しく理解すれば、Etherの価格は間違いなく落ちる(加熱しないように個人的に注意喚起はしているが、あまり効果はないようだ)
  4. まだ公開が出来ていないものも含めPoS、Shardingも研究は進んでいるが、完成にはまだ数年程の時間が必要
  5. Vlad自身はEtherの高騰は行き過ぎだと感じ、すでに個人的に保有しているEtherは少し前に売却済み(結局そこからEther価格はさらに数倍以上に跳ね上がっているが…)
  6. バブルはインフラ開発への資金流入などポジティブな面もある

 

などとコメントしています。

(英語ですが、中々面白いインタビューなので英語大丈夫な人は直接視聴をお勧めします。なお、Bitcoin UncencoredのホストのChris DeRoseは悪名高いいわゆるBitcoin Maximalistなのでそこらへんはある程度バイアスとして認識しておいた方がよいでしょう)


他にも、ICOへの送金の過剰需要で、大規模なICOがあるたびにイーサリアムネットワーク全体に遅延がでたり、Myetherwalletのノードが落ちたりなどの副作用などもすでに起きており、ICO投資への需要や送金数の増加に対してインフラがまだ追いついていない状況が顕在化し始めています。 また、利用者数が増えたり、参加プロジェクトが増えている一方、イーサリアムのスケーリングの問題はビットコインより難易度が高いとも言われています。


今後の予想

 

上記のような状態を考慮し、最後にいくつか未来予想をします。

なお、自分は一か月前にイーサリアムの市場規模がビットコインに肉薄するような状況も予測できなかったですし、予想は外れて当然のところもありますが、後で自分はそう思っていました、と後出しで言うのもあれなので、自分の想定、予測を今のうちに公開しておきます。


1.Etherの市場規模はビットコインを抜く

イーサリアムにとってビットコインの市場規模を抜くというのが現在の大きな目標マイルストーンになっているのは間違いないです。このままICOバブルが継続し、メディアでの注目、著名人からのプッシュなどがあれば少なくとも一回はイーサリアムの市場規模がビットコインを抜くタイミングは出てくると思います。8月1日のBIP148などビットコイン自体の不透明な未来なども考慮すれば早ければ今月中にそれが起きてもおかしくはないです。

 

2.ICOバブルは今年中くらいは続く

いつこのICOバブルが崩壊するかはわからないですが、今の様子を見ているともう少し今の状況が続くでしょう。個人的な見立てだとThe DAO的な大きな事件が近く起きない限り、今年中は継続するのではないでしょうか。ただし、時期は正確に予測できなくとも現状を長く持続させることは出来ないことは確信しており、「もし」の話ではなく「いつ」の話です。


3.ICOバブルが頂点に達した後に急速な価格下落が始まる


最終的にはプロジェクトのスキャンダル、崩壊などが続出し、急速にICOトークンの価格の下落、それに伴うEtherへの投機需要の消失、ICOプロジェクトによる集まったEtherの現金化など、Ether自体の価格下落が始まると思います。

 

少しずつ事件が起き、雪崩のように最終的にグワーッと来るかもしれないですし、先日ビットコイン研究所の大石さんが解説してたのですが、早ければBankorのようなプロジェクトがThe DAO2.0のような事件を巻き起こし、突然の事件がきっかけで崩壊が始まるかもしれません。(Bankorについてはまだ自分は精査出来てないのでわからないですが

 

ビットコインの2013年の価格上昇は今から振り返れば一時的なバブル相場で、ご存知の通りそこからビットコイン価格は大きく下落し、2年ほどの調整期を経験することになりました。現状のイーサリアムはビットコインの2013年の状況に似ているとも言えますが、当時のビットコインにはビットコインをホールドするという以外あまり投機的な要素はありませんでした。もしこのEtherの大相場が(スキャム)ICOへの投機需要(ほぼギャンブル)により膨張し続けており、アルトコインバブルで浮いた資金がイーサリアムのICOにこれからさらに流れ込んでいくとしたら、このICOバブルの規模、そしてその後の急落の規模は2013年のビットコインの比にならないと思います。ICOバブルに熱狂して資金が集まれば集まるほど、自分たちの墓穴を掘っているような感じです。

4.訴訟、規制要求などが高まり暗号通貨業界全体に波及する


イーサリアム上のICOプロジェクトが崩壊していくことで、少なくとも一時的なトークンやEther価格の下落は避けられないと思いますが、これが原因でICO禁止などの措置がでたり暗号通貨業界全体にネガティブな影響が出るのではないかと懸念しています。すでにSECがICOの摘発を始めるのではないかというまことしやかな噂も流れ始めていますが、残念ながらイーサリアム以外の暗号通貨やプロジェクトも含め、自分はあまりいい結末は想像出来ません。


最後に

当然ICOの熱狂やEther価格の乱高下と、テクノロジーとしてのイーサリアムは別に考えるべきで、この熱狂が冷めて一度大きな価格の調整が入ってもイーサリアムが終わるわけでもないですし、バブルが人と金を集め、それがインフラ開発を進めていくという側面もあると思います。実際この1年ほどでイーサリアム上のプロジェクトの数は圧倒的に増えましたし、ツールも増え、ちゃんとしたプロジェクトを作ってくための土台が出来上がってきているのも事実です。自分の予想とは逆にビットコインの状況次第ではこのままイーサリアムがさらに継続して勢いを増していくシナリオも想定は出来ます。


それは理解しつつも、現状のICOの騒乱とそれを許容しているかのようなコミュニティーの空気感、それに便乗をして理解度の低い投資家から搾取しているようなプロジェクト・開発者(著名人なども含む)、ただの集金プラットフォーム化しているようなイーサリアムの状況には懸念を感じざるを得ません。そしてその影響が結局他のプロジェクトなどにも波及するリスクがあるのも自分個人としても心配しています。偉そうに批判しているというか、自分たちにも結局悪影響が跳ね返ってくるのならディスらざるを得ないですね。


中には面白いアイディアやコンセプトを本気で実現しようとしているICOプロジェクトもあり、そういうプロジェクトは引き続き個人的にも研究したり紹介したりしたいと思いますが、数で言えばスキャムが圧倒的なのは理解した上で行動した方がいいでしょう。

The DAOの熱狂と崩壊からちょうど1年ほど。結局歴史は繰り返すということですかね。何か色々複雑な心境です。

 

※書いた後に気づきましたが、こちらのWhalepandaさんが少し前に書いたEthereumに関する記事とかなり内容が重なる部分がありました。微妙に見方が違う点もありますが、中々面白いまとめなので興味のある人は是非こちらの記事も読んでみてください。